第16章 実弥さんと一緒
午後の仕事を、サボってしまった。
洗濯物も、とりこんでいない。
あのまま飛び出してきてしまった。
あぁ、やってしまった。
自分が、こんなに感情に振り回されるなんて
思ってもみなかった。
実弥さんの事となるとダメらしい。
恥ずかしい。
そして、申し訳ない。
夕焼けをのぞめる高台の公園で、
夕日を眺めながら思う。
だんだんと落ち着きを取り戻して行くと
今度は罪の意識にとらわれていく。
さっき神社で見てしまった光景に、
私は嫉妬した。
彼が私に隠れて、よからぬ事を
しているのではないかと疑った。
本人に確かめもしないで。
勝手な推測で。
自分が、こんな身勝手な人間だったなんて。
私はただ項垂れた。
ちゃんと確かめようって思ったじゃない。
あの実弥さんが私を裏切るなんて
一瞬でも考えてしまった事が申し訳ない。
どうしよう。
帰るのが怖い。
こんな私を、
実弥さんは再び受け入れてくれるだろうか。
…もし、そうでなかったとしても
自分の責任だ。
怖いけど、帰らなくちゃ。
必ず帰るって、約束したんだ。
私は重い足を、2人の家へ向けて踏み出した。
カラリと、戸の開く音がする。
俺は弾かれるように顔を上げ
玄関へと走った。
開いた戸の隙間から入ってきたその影を
一も二もなく抱きしめた。
「っ!」
突然の事に驚いた様子のそいつは
俺の腕の中で小さく震えていた。
冷てぇ。
寒さのせいか。
「実弥さん、ごめんなさい…」
消え入るような声は
やっぱり震えている。
泣いてるのか。
あぁ、無事でよかった。
心配した。
俺は色んな感情がないまぜで、
ただただ睦の体を掻き抱く。
「おかえり、睦」
「実弥さん…」
ほぅっと息をつく睦の両頬を掴んで
目線を合わせる。
睦も、俺の目を見つめてくれた。
——あぁ、やっと。
俺のことを見た。
俺の所へ、帰って来た。
感情の溢れた俺は
夢中で口づけを繰り返す。
「俺から…逃げんじゃねぇ。そばに…いろ…」
合間に、懇願するように囁く。
「ふっ…。ん、」
睦の吐息が、俺を煽っているようで。