第16章 実弥さんと一緒
空いた手で、
もう一方の腕をつかもうとするが
全力で拒否される。
その時、睦が流した
涙の跡が見えた。
プツリと、何かが切れたような気がした。
強引に細い両腕を掴み上げ
睦の体ごと、
玄関の戸に押し付ける。
「少し、落ち着け」
それでも俺から目をそらし
横を向いている唇に、俺のそれを寄せた。
気づいた睦が目を見開く。
「いやっ…」
俺は構わず口づけてた。
掴み上げられた腕が離して欲しいと言っている。
壁に押し付けられた背中が、
逃げ出そうと揺れている。
でも俺が、それを許すはずがない。
「俺から離れるなんて、できると思ってんのか」
その言葉を聞いて
睦の大きな目から
次々と涙が落ちる。
「…今は、放っておいて」
震える声で、そう言った。
どういう事だ?
「お願い。今は、一緒にいたくない」
……居たくない…俺と?
頭を、何かで殴られたような気がした。
「必ず…帰るから…。今は…」
嗚咽で喋れなくなる睦。
俺はあまりのショックで
こいつの腕を掴む手の力が
抜けていくのを感じた。
それを見逃さなかった睦は
スルリと俺の脇を抜け、
門の向こうへと走っていく。
俺は睦のいなくなった玄関の戸を
ただ見つめたまま、
その場にしばらく立ち尽くしていた。
いつからそうしていたのか。
外は真っ暗、部屋も真っ暗。
ただ、畳の上に座って
何も乗っていない卓を眺めていた。
さっきのショックから立ち直れねぇ。
『一緒にいたくない』
睦はそう言った。
俺には、
そんなふうに言われる覚えがまったくない。
何か重い当たれば謝罪もできるが
まったくわからないのだ。
朝も昼も、いつも通りだった。
なのに、あの、玄関で会った時、
あの時には、もうすでに様子が違っていた。
何があったか。
何かを見つけた?
俺が何かしたのか。
いや、やっぱり覚えはねぇ。
だがあの態度からして、
俺が何かをしてしまった事は明白だった。
答えの出ない自問自答を、
ただ繰り返していた。