第1章 嚆矢濫觴
「ホラ、出来たぜ。
固定はしてあるけど、無理に動かすなよ?」
「…ありがとございます」
私は視線を落としたまま言った。
わざわざこんな所まで来てくれた人に対して、
失礼な態度だなと自分でも思う。
でもあんな気持ちになった事、
自分でショックだったんだ。
「……で?」
宇髄さんは、私の腰を挟むようにして、
畳に両手をつき、身を乗り出すような体制で私を覗き込む。
……ちかっ。
「………」
「………」
私が黙ったままでいると、
宇髄さんは更に顔を近づけて、
「なぁ睦。
……あん時、妬いたろ」
「‼︎」
核心をついた。
バレている!
私は離れてもらおうと、
両手で、宇髄さんの肩を押す。
びくともしないので、
せめてと思い、
肩から手を離して
彼の両目を塞いだ。
「……だから、何してんだ」
おとなしく両目を塞がれたままの宇髄さんは、
呆れたように言った。
ちょっとおもしろがっているようにも見える。
「……見ないで下さい」
「……何でよ」
「見られたくないから」
「何をだ?」
「私の…」
言いかけて、気がついた。
「言わそうとしてるでしょ!」
うまく誘導されてしまう所だった。
宇髄さんは私の両手をそっとはずすと、
至近距離で、私の目をしっかり見つめ、
「当たり前ぇだろ。
あんなに派手にやきもち焼いてよ、
それを可愛いと思う俺の気持ちがわからねぇかよ」
え?
「…可愛い?」
あんな真っ黒い感情のどこが可愛い?
「可愛いねぇ。ついこないだまで、
やきもちのやの字も知らなかったお前が、
あんなにあっさりと、俺に妬いてくれるようになったなんて」
嬉しそうに私のおでこに唇を押し付ける。
「う…髄さん」
恥ずかしい。
「睦、ちゃんと言えよ。
自分の気持ち、全部俺にぶつけてみ?」
宇髄さんは、私が逃げられないように
背中に手を添える。
おでこに唇をつけたまま喋るからくすぐったい。
「…言えない」
「言えよ」
「恥ずかしい」
「恥ずかしい事なんてねぇ」
宇髄さんは私の顔中に口付けを落とし始める。
「…っ宇髄、さん。やめ…」
「言わねぇとやめね」
「うそっ…。ムリ…」
「無理じゃねぇだろ」