第16章 実弥さんと一緒
すると睦は
我慢する事をやめ、めいっぱい涙を流して
俺に縋りつく。
そうだよな、淋しいだろう。
ここに来た時から、
こらえていたのを知っていた。
それでも、俺の所に来てくれて感謝する。
今まで過ごしてきた家や母親の存在を
俺如きが簡単に超えられるわけがねぇ。
でも、俺は精一杯、お前を守る。
気持ちだけは、誰にも負けねぇ自信がある。
「ごめんなさい…今日だけ、だから…」
いいんだ、大丈夫。
「そばにいる」
「実弥さん」
「安心して、休め」
俺は何か、まじないでもかけられんのか。
俺の言葉とほとんど同時に、
睦は眠りに落ちていった。
カーテンの隙間から、
朝日が差し込む。
朝の冷たい空気は
私の眠りを誘う。
二度寝してしまいそう…
気持ちいい。
実弥さんが用意してくれたこの布団は
あったか過ぎて起きられない。
包まれている感触を離したくなくて
目の前の抱き枕にしがみつき
顔をうずめる。
するとあろう事か、
その抱き枕はくすくす笑って
「寝ぼけてんのかァ?」
喋ったのだ。
勢いよく顔を上げると、
それは抱き枕なんかじゃなく実弥さんだった。
「ぅわあ!」
あぁぁあぁ、なんて事をしてしまったの!
「随分と気持ちよさそうに寝てたなァ。
よかったよかった」
余裕の笑顔で起き上がる実弥さん。
けらけら笑いながら部屋を出て行ってしまう。
「待って実弥さん!」
言い訳をさせてほしい!
恥ずかしいから…!
朝食を作りながら、
私はいろいろ考えた。
昨夜、私は布団に入り泣いてしまった。
何とも情け無い事に、…淋しかった。
今まで過ごしてきたのとは違う場所。
本当に嬉しかったし、
ここに来た事を後悔はしていない。
でも、それとは違う、
何とも言えない空虚な感じ。
実弥さんは、それに気づいていたかのように
何も聞かずにただ抱きしめてくれた。
とても、安心できた。
私のことを、私よりもわかってくれる人がいた。
あの淋しさを、
自分1人で乗り越えなければいけないと
思っていた。
でも実弥さんは、一緒に乗り越えようとしてくれた。
私に手を差し伸べてくれた。