第16章 実弥さんと一緒
嫌じゃねぇ嫌じゃねぇ。
この気持ちは伊達じゃねぇんだから…
「でも、それでも
実弥さんが嫌じゃないなら
一緒に住まわせて下さい」
可愛いヤツ。
…ん?
「一緒に…?」
「えーと…。よろしく、お願いします」
……。
「お前、大丈夫なのかよ」
「え?…だい、じょうぶです…」
「本気かよ…。後でやっぱやめたなんて
受け付けねぇぞ」
「えっ、そんなこと言いません」
至って真面目なこいつを
思い切り抱きしめた。
「っ…くるしいっ」
「お前を思ったら、
…白紙に戻した方がいいんじゃねぇかって…」
「…実弥さんが…言ったから…」
話しづらそうな睦。
俺は腕を抱きしめる腕を緩めた。
途端、ホッと息をつく。
「だから、いっぱい考えた。
お母さんは、遠くへ行ってしまうんだって。
安心して行ってきてほしい。
でも、そうじゃなくて、
…実弥さんが私を必要に思ってくれるのなら
そうしたいです。
私が、一緒にいたいから」
決意表明のような言葉を聞きながら
だんだんと頬を赤らめていく睦を
強く強く、抱きしめていた。
睦の引っ越し。
とはいえ、
家具は揃っているし
運ぶのは睦の身の回りの物だけだ。
俺は贈り物を待つ子どものように
そわそわしながら
あいつのものとなる空き部屋を掃除していた。
我ながら笑える構図だ。
…俺、こんなに浮かれていて大丈夫だろうか。
そんな事を考えていると、
「ごめんください!」
玄関から愛しい声。
出迎えると、
大きな荷物を抱えた睦が立っていた。
「そんなにあるなら俺に言えよ」
俺が驚いていると
「いえ、…そこまで母に送ってもらったので…」
あぁ、そうか。
母親との時間も、大切だよな。
俺は睦の手から荷物を取り上げる。
「ありがとうございます。お邪魔します」
と、草履を揃えた。
「違うなァ…」
「えっ」
こちらを見上げた睦に、
「あいさつが違う。ここはお前んちだ」
「あ…、ただいま…」
小さな声で言い直した。
「…照れますね」
少し俯く仕草が、何とも言えない。
いつまで経っても少女のようなこいつが
可愛くて仕方ねぇ。