第16章 実弥さんと一緒
睦の作るメシは
あったかくていい。
優しい気持ちになる。
最早、俺の体はこのメシで出来ている。
「実弥さん」
睦が少し高くなった声で俺を呼ぶ。
緊張している時の声だ。
「何だ」
「あの、ごはんの後、お話してもいいですか?」
来た。
半月ほど前、
こいつの母親から、ある話をされた。
睦と、添い遂げる気があるのかと。
やけに神妙な面持ちだった。
面食らったが、曖昧な気持ちで
睦と一緒にいるわけじゃなかった俺は
はっきりと頷いた。
なぜ今そんな事を訊くのか
よくわからなかったが、
病気で倒れた事や恋人がいた事が
関係していたのかと思うと納得できた。
何か…有事の際に
睦を1人きりにせずに済むという事だ。
そんなふうに言われなければ、
俺だって睦にうちへ来いなんて
言い出さずに終わっていたはず。
今のままで、充分満足していたからだ。
でも、こうなってしまったのなら
母親の体調なんかその恋人とやらに
任せてしまえばいいと思った。
母親の方が、それを望んでいたのだから。
夕飯を済ませ、温かい茶を飲みながら
「あの、この間の一緒に暮らす、
というお話ですが」
睦が俺の目を見据えて話し出す。
…こんな短期間で答えを出したという事は
あまりいい答えは期待できないか…?
こいつはずっと、母親と二人暮らし。
実家を離れた事のねでこいつに
家を出るだけの勇気や勢いがあるのだろうか。
俺という存在が、
こいつの心をそこまで動かせるのか。
そう考えると
この話はなかった事にしてやるのがいいか。
母親からも、
一緒に住めとまでは言われてねぇし。
「私、たくさん考えました。
実弥さんのこと、自分のこと、母のことも。
私、結構ズボラなんです。
こんなに部屋をキレイに保つ自信ないです」
…何を気にしてんだ。
お前になら、
どんな部屋にされても構わねぇのに。
「自分ではわからないけど
イビキかいてるかもしれないし、
お風呂だってめちゃくちゃ長いんです」
真面目に話すこいつにゃ悪ィが
俺はつい、笑いをこぼす。
どれも大した事じゃねぇ。
なんて可愛いカミングアウト。