第16章 実弥さんと一緒

「…恋人が遊びに来たとして、
お前は遠慮すんだろ。
自分がいたら
邪魔になるとかなんとか思うんだろ。
そこに居づらくなったら、お前はまた
居場所がねぇと考えるんだ」

「……」

実弥さんの言う通りかもしれない。

「そんなふうに思わせるくらいなら
睦は睦の好きな人と
幸せにしていて欲しいと考えんじゃねぇの」

「そう…かも」

「ただの想像だがな…。でもまぁ
俺のタイミングが悪かったのは事実だ
悪ィな」

優しい声。
悪くもないのに誤ってくれた。
背中をさすってくれる大きな手。
私は、一気に安心してしまって…

「いつもの、…実弥さんだ…」

つい呟くと

「は？」

少し体を離し
私を覗き込む。

「怒っ…た…」

図らずも、
再び私の目にぶわっと溜まる涙。

「——え、」

驚く彼。

「実弥さんが…！」

まるで子どものように
思い切り泣いてしまった。
幼い時に父と別れ、
男の人に怒鳴られ慣れてない私には
恐怖だった。

「ごめんなさい…」

しくしくと泣き出す私に、
実弥さんはどうしていいのかわからない様子で
おろおろしている。

「いや！…おい！あァ？睦、」

私といえば、
結界してしまった涙腺の勢いが止まらない。

「——ごめんなさい…」

ほろほろと泣く私を
泣き止ませようとしてくれるけれど…。

「おい待て、悪かったって。
あれは怒ったんじゃねぇだろ…！
確かに怒鳴ったけどよ…」

慌てながら私の頭を撫でたり
指先で涙を拭ってくれたりしている。

「…うぅ…」

「睦、頼むから泣き止め」

私の肩に手を置いて
申し訳なさそうにしている実弥さん。

違うんだよ実弥さん。
色々ありすぎてこの涙なの。
ごめんね、
実弥さんが
怖かった事だけのせいみたいになっちゃった。
だから私は——言葉にならないから。
彼にぎゅっと抱きついた。

謝らないで？実弥さん。
悪いのは、全部私なのに…

「ごめんなさい」

「…」

「ごめん…なさい」

「もう言うな。なんも悪くねぇだろ」

「そんな事ないよ。私、悪かった」