第16章 実弥さんと一緒
「何でそんなになるまで言わねぇんだお前はァ‼︎」
「ひっ…」
実弥さんの怒鳴り声。
あまりの迫力にびくりと体が跳ねる。
怒って、る。実弥さんが。
「俺はお前に言ったろうが。
どうしてほしいか訊いただろ」
努めて優しく話してくれた。
…怒ってるくせに。
「…お母さんは、
私がいなくても心配ないって言ったのは
実弥さんじゃない…」
「あァ?」
「私なんか、いなくたっていいんでしょ」
「はァ?何でそうなるんだよ」
心底驚く実弥さん。
「居場所を失くした私を、
実弥さんが引き取ってくれるの?
そんな惨めな事ない」
今にも溢れそうな涙を
湛える私を覗き込み
「んなワケねぇだろ。
睦と一緒に居てぇからに決まってんだろ。
お前に居てほしいんだよ」
目を見てそう言ってくれる。
「だって、お母さんも実弥さんも、
私の事、どう思ってるのか…
急に恋人がいるって…。お母さんのくせに…。
お母さんが幸せで嬉しいけど…
やっと目が覚めて。帰ったはずの実弥さんがいて。
実弥さんが捨てられた私を拾うみたいな事…」
辿々しい私の話を
我慢強く聞いてくれていた実弥さんが
「おい言ってねぇぞ!
んな事言ってねぇし思ってもねぇわ‼︎
どんな誤解してんだてめぇはァ」
私に本意を伝えるかのように
ぎゅっと力を込めて抱きしめてくれる。
口が悪いのに優しくて
力強く私を受け止めてくれるこの人に
ひどく安心した。
もうあの、嫌悪感はなくなっていた。
「急に色んな事が起こり過ぎて混乱したな。
俺も、タイミングが悪かった。
ごめんな。…でも…」
実弥さんは少しだけ力を抜いた。
「お前、母ちゃんにフラれたと思ってんだろ」
「え?フラれ…?」
「母ちゃんには、恋人がいて
邪魔者にされたと思ってねぇか?」
「…思ってる」
「そんなわけねぇだろ」
「…どうして?」
「…ずっと2人でやってきたんだ。
すぐに切れるような絆じゃねぇはずだ。
お前ら親子、そっくりな性格してる。
お前には、母ちゃんが何を考えてるかくれぇ
わかるんじゃねぇの?」
「……わからない」
私の頭は、今そんなこと考えられないの。