第16章 実弥さんと一緒
そんなふうに思われながら
一緒に暮らすのなんて冗談じゃない。
——何だろう。
心が、一気に重く、暗くなっていく。
「睦」
実弥さんは、また手を伸ばし近づいてきた。
嫌だ。嫌。
「嫌だ」
私は下を向いたまま、また一歩下がる。
「睦、どうしたァ」
どうしたって?
「…どうもしない」
「そうは見えねぇなァ」
「どうもしない!」
実弥さんは私の大声に驚いたように
動きを止める。
私の気持ちを話したって
理解してもらえないような気がした。
そもそも私自身が、うまく伝えられる自信がない。
「…わかった。じゃ言いてぇ事は」
「そんなのない」
「…その、不機嫌のワケはァ」
「不機嫌じゃない」
私の答えに、実弥さんは小さくため息をついた。
「…今、面倒だって思った」
可愛くないことを、躊躇いもなく言ってしまう。
「放っておいて。こんな面倒なヤツ、
相手にしたくないでしょ」
「んなこと思ってねぇ。お前は俺の大事な女だ」
「そんなウソ言わなくていい。
もう帰って、大丈夫だから。1人で帰れる」
「何でウソなんだよ。お前の事、大切だ」
しつこく近づいてくる実弥さんを
私は後ろに下がってどんどん避ける。
「睦、逃げんなァ」
彼はまだ、手を伸ばしてきて、
私はそれをしつこく払いのけた。
実弥さんが本気を出せば、
私なんかひとたまりもないだろう。
でも彼はそうしない。
——そうしないのだ。
「嫌だ。もう帰るからどいて」
「俺にどうしてほしい?」
「何もない。どいてほしい」
そう、どいて。
早く帰って、眠ってしまいたい。
…帰って…?
帰るって、どこに…?
そう思った途端、
思考も身体も
動かなくなってしまって、
私はとうとう、
実弥さんに捕まってしまった。
でもその瞬間、
ぞわっと全身に鳥肌がたった。
ひどい嫌悪感だ。
「は…離して!」
彼の、大好きなはずの腕の中、
必死にもがくけれどびくともしない。
「睦。
今、帰る場所なんかねぇと思ったろ」
——!
「……う…」
図星だった。
何も言えない。
泣きたくもないのに、涙が込み上げた。