第16章 実弥さんと一緒
少し先の街灯の下に、
実弥さんが立っているのが見えた…
「何で…」
何でこんなとこにいるの…?
用事があるって、帰ったでしょう?
まだ晩ごはんだって食べてないはずじゃない。
私の声に気づいたのか
実弥さんはこちらを向き、
私を見つけるとにこっとして近づいてくる。
「実弥さん…何でまだこんな所にいるの?」
私の言葉を聞いていた彼が
ハッと息を飲むのがわかった。
「どうしたァ。何かあったな」
…どうしてわかるのかな。
「実弥さん、帰ったはずでしょ?」
「こんな寒い夜に、お前1人で帰すわけねぇだろ」
母と2人にしてくれよ為の口実だったの?
何なの、この人。
「…実弥さん。実弥さん、ねぇ、お母さんたらね、
恋人がいたの。さっき、病室で会っちゃった」
どうしてだろう、ショックだった。
置いてけぼりにされた気分。
「ヘェ……だからか」
え?
「何が、…だから、なの?」
「…睦、なら、俺んとこ来るか?」
……
「は?」
私は何だかおちょくられているようで
腹が立ってきた。
「何言ってるの⁉︎行くわけないでしょ‼︎」
何なの⁉︎
お母さんといい実弥さんといい。
こんなタイミングでする話じゃないじゃん!
そんな事より他にあるでしょ!
私のこのショックな出来事を
放置しないでもらいたい!
「そうかよ…でも少なくとも
母ちゃんの心配はもうねぇだろ?」
母の事は現れた恋人に任せられる
という意味だろうか。
でもそんな簡単には済まない。
何だろう。
モノ扱いされてる気がする。
お母さんは病気だった。
よくなったし、恋人もいるから
私が邪魔で、それを実弥さんが引き受ける。
そんな構図が頭の中出来上がった。
何で今、みんなでそんな話をし出すの?
偶然重なっただけ?
様子のおかしな私を察したのか
実弥さんが私に手を伸ばす。
あの、優しくて大好きな手につかまるのが、
嫌だ。
私はそれを払いのけながら一歩下がった。
「…睦?」
実弥さんは私を、優しく呼ぶ。
私はもう、疑心暗鬼になっていた。
私は。
…私はなんだったんだ。
母が心配だ。
でも、私じゃない誰かがいてくれる。
実弥さんと一緒にいたい。
でも、居場所がなくなった私を
哀れに思っているんだとしたら
そんなの嫌だ。