第16章 実弥さんと一緒
背中に手を回す。
すると実弥さんも、
私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「んな事ねェ。
お前にはいつも、癒やしてもらってる」
「…私、何もしてないよ」
「…くく。そう思っとけ」
実弥さんは優しく微笑む。
「俺、今日は用事済ませてここに帰ってくる」
「ここに?」
来てくれるの?
「あァ。だから、そしたらまた、
こうやって俺を抱きしめろ」
いたずらっ子みたいな目をして言うものだから
「じゃあ私が、実弥さんを抱きしめたら
ちゅってしてくれる?」
私も、彼に倣う。
実弥さんは少し目を見開いて、
眩しそうに細めると、
「わかったよ。…だが、…
今、してもいいか?」
私の返事を待たずに、そっと口づけをした。
実弥さんの言いつけ通り、
本当に一切の家事をやらなかった。
ああ言われていたのに、
包丁を握って指を切ったり
洗濯をして転んで擦り剥いたりしたら
ものすごく怒られるだろうから…
だから私は、病院へと向かった。
相変わらず、母の意識はなく、
戻る気配もない。
それでも私は、今日の天気や実弥さんの事
思ったことなど、
母の手を握りながら話して聞かせた。
昼を過ぎ、さすがにお腹が空いた私は
母にまた来るねと伝え、帰る事にした。
早く、会話がしたいな。
目を覚ましますように、と願いつつ
晩ごはんの買い物をすべく、
病院を後にするのだった。
随分と痩せた月が、西の空に張り付いている。
予定よりも遅くなったが、
俺は睦の家の戸をガラリと開けた。
すると奥の方から睦が駆け寄って
「おかえりなさい!」
満面の笑みで迎えてくれる。
あぁ、それはやべぇなァ。
「おぉ」
あんまりガッつくのもどうかと思い
平静を装って普通に返す。
…いや、普通よりもそっけない。
それなのに、
「実弥さんが帰って来ておかえりーなんて…
ふふ、何だかちょっと夫婦っぽいですよね?
嬉しくなっちゃう」
なんて可愛い事、
こいつが平気で言いやがるから。
戸とカギを後ろ手で閉める。
そのまま、
嬉しそうにしている睦に向かって
両手を広げてみせる。