第16章 実弥さんと一緒
「実弥さんも忙しいのに…
イヤですよねぇ」
ムリヤリ、いつもの調子で話し出す。
——はぁ。
「何の為に、俺がいると思ってんだァ?」
「…え?」
「そうやって、周りに気ィつかって、
1人頑張るお前は嫌いじゃねぇよ。
でもな、俺まで周りと同じにすんじゃねぇよ。
俺は、…違うだろ?
楽しい時だけじゃねぇ。
ツラい時も悲しい時も、
一緒にいてぇと思ってんだよ」
睦が、
俺の話を噛み締めるように聞いている。
どうか、伝われ…。
「迷惑上等だァ。お前にかけられる迷惑なんて
迷惑のうちに入らねぇわ」
睦の、少し冷えた頬に手を伸ばす。
「こんな顔したお前を置いて、
俺が帰ると思うのか?どうせ俺を追い返して
1人で泣こうとしてんだろうがァ。
俺のこと思うフリすんな。
そんなんで俺が喜ぶと思うのかよ」
「違います!これ以上…
実弥さんの邪魔したくないだけだもん…」
「俺がお前を邪魔に思うわけねぇだろ」
「そんなの、わかんない…
私は今、めちゃくちゃ悲しいし淋しいのに。
こんな私がそばにいたって…」
話の途中で、睦をそっと抱きしめる。
「めちゃくちゃ淋しいのかよ?
なら、俺を帰すべきじゃねぇよなァ?」
「……実弥さんは、帰らなくちゃダメよ?
私、また泣いちゃうもん」
睦の話し方が、
子どもに返ったようで、
「泣くのかよ?」
「うん、泣い、ちゃいそう…」
「…泣けばいいだろ」
「…やだ」
「何でだ」
「実弥さんの前では笑っていたいのに」
「いや、今ソレは無理だ」
「私、泣き虫じゃないの」
「…くっ、んなこと知ってるよ」
「何で…わら、うの」
「悪ィ。お前、変なとこ気にすんだなァ」
「変じゃない。
実弥さんにどう思われるか、大切な事だもん」
可愛い睦。
「睦は、優しくて元気で頑張り屋。
もうちっと素直だと、俺は嬉しいが」
「素直…」
睦はついに泣き出した。
「そう、素直に、俺に甘えとけ」
俺が睦を強く抱きしめた瞬間、
こいつも俺を抱きしめる。
声を押し殺してなく睦に、
思い切りないたっていいのにと
俺は心底思った。