第16章 実弥さんと一緒
「毎日、いっ…しょに、いたのに…っ」
睦が俺にしがみつく。
「そうだなァ」
俺はそう言って、
彼女の髪を撫でる。
「私…気づかなかった…」
睦の悔しさが、痛いほど伝わってくる。
「このまま会えなかったら…っどうしよう…
やだ…こわい…実弥さ…」
悲しみも、不安も、
すべてを俺が代わってやれたらいいのに…。
そんなできもしねぇ事を考えながら
俺はただ、
睦を抱きしめる事しかできないでいた。
1時間程後、
睦の母親は手術を終え、
個室へと移された。
術式は無事終えたが、意識は戻らなかった。
睦はベッド脇に立ち、
母親から目を離さない。
もう何時間そのままだろうか。
離れたくねぇのは山々だろうが
さすがにこのままってわけにもいかねぇ。
「睦、今日は帰るぞ。
明日、朝からまた来ればいい」
睦は頷くものの、
心配からかなかなかその場を離れない。
「一命は取りとめたと、医者も言ってたし
心配はねぇよ。お前も少し休まねぇと…
母ちゃんが目ェ覚ました時
お前こそ元気でいねぇとならねぇんだぞ?」
そう言うと、ゆっくりこっちを向いて、
「うん…」
とひとつ、頷いてみせた。
いつもの陽気さはまったくなく、
ただ俺に手を引かれ、
だまってついてくる睦。
何を考えているのか、
相変わらず視点は合わずボーっとしている。
…これは、重症だ。
ショックが大き過ぎる。
睦の家に着き、戸を開ける。
開けたまま、家の中をジッと眺める睦。
真っ暗な室内に愕然としているようだった。
父を早くに亡くし、後ずっと、
母親と2人寄り添ってきたのだ。
当然と言えば当然だ。
俺の視線に気づいたのか
睦は慌てたように
「あっ、ごめんなさい!
送ってくださってありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしてしまってごめんなさい。
でも、…ありがとうございました。
一緒に居てくれて、とても心強かったです」
…おい、これは俺、ここで帰されるヤツか?