第16章 実弥さんと一緒
日が昇り、朝が来て
また1日が始まる。
毎日同じ事の繰り返し。
でもそう見えて、
1日1日、まったく別の道を歩いている。
何が起こるかわからない。
何が起こっても、おかしくない。
睦を自宅へ送り届けた時の事。
帰宅を待ち構えていた隣の家の女が
「睦ちゃん!お母さんが倒れてね、
いま病院に運ばれてったんだ!」
睦の肩を強くつかんで
そんな事を言った。
「…え?」
「苦しそうにして…今ね、…!」
その女の話も頭に入って来ねぇ。
睦の様子が、
明らかにおかしくなっていったからだ。
「睦!」
呼んでみるが反応がない。
睦の目線の先を覗き込むが
視点が合っていない。
…ダメだ。
「あの…こいつ俺が連れてくので、
病院の場所、教えてもらえるかァ」
あの女に教えてもらった病院に着くと
手術室の前で待たされた。
そこで、何年も病院に通い、
薬を飲んでいた事を知らされた。
睦は青白い顔で、扉を見つめている。
「睦…」
そこにある椅子に、座るよう促した。
「知ら、ないんです。
お母さんが病気だったなんて。何…にも…」
大切な一人娘には、心配をかけたくない、
そんな所なのだろうか。
知らされていなかった事を含め、
睦には大ダメージだろう。
「知らなく、て。ごめんなさい。
びっくりしちゃって。
…あ、実弥さん、ごめんなさい。
私はもう大丈夫なので戻って下さい」
そう一気にまくしたてた睦は、
蒼白の顔に笑みを浮かべて見せたのだ。
俺はたまらず抱きしめた。
「お前、なんて顔してんだ…
そんな顔されるくらいなら
泣いてくれた方がマシだ」
あまりの痛々しい笑顔に、
俺の方がどうにかなりそうだ。
そして、こんな時まで俺の事を気遣いやがる…
「はは、何か、ひどい事言われてます?
何で…」
俺の言葉に素直に誘われてくれたのか、
睦はハラハラと涙を流し始めた。
「何で、言って、くれなかったのかなぁ。
こん…なに、なるまで…」
悲しい問いに、
俺は睦を抱きしめる腕に力を入れた。