第15章 秋祭り【実弥】
「そしたら睦の大事な祭り、
終わっちまうぞ…?」
複雑そうな目を向けてくる実弥さん。
そんなに、気遣ってくれなくたっていいのに…
「…実弥さんの方が、大事」
「…!」
私の言葉に見開かれた目が、
次の瞬間、フッと細められて
私の大好きな優しい笑顔になった。
そして私が持っていた荷物を全部奪い、
抱きつけと言わんばかり
両腕を開いて見せた。
違っていたらまったく恥ずかしいが、
そういう事なんだろうと覚悟を決めて
(いくら私でも、どう言う事?なんて
野暮なことは訊けません)
ぎゅうっと抱きついた。
途端、頭の上でふっと笑ったような吐息がもれて、
逞しい両腕が
よくできましたと背中を抱きしめてくれる。
「可愛いなァ」
頭のてっぺんに頬を擦り寄せて
優しく囁いた。
そんなふうに言われて嬉しくなった私は
更に強く抱きついてしまう。
「今日、ありがとうございました。
とっても楽しかった」
「そりゃ良かった。ホントなら
もっと早くに連れてくるはずだったのに
悪かったなァ」
「絶対に今日の方が楽しかったからいいんです」
「…そんなこと言い切れんのか?」
「はい!あの日、実弥さんが
忘れてくれてよかったです」
実弥さんは呆れたように私を見下ろした。
「よく言うぜお前…
…あんなにおいおい泣いてたくせによ」
「うっ…そ、それはあの時は悲しかったから…」
その話を蒸し返すのはやめていただきたい…
恥ずかしい。
「まぁ、睦が良かったならそれでいい」
「はい…」
「で?」
「はい?」
私は彼の胸から顔を上げた。
「帰っていいのか?もう待てねぇけど」
「…何を?」
「お前を」
「えっ!」
直接的な物言いに驚く。
だってこんな饒舌な実弥さん、珍しい…
「え、と…はい…」
返事を聞いてにこりと笑って見せた実弥さんは
額に口づけを落としてから
私の手を引いてものすごい勢いで歩き出した。
玄関で下駄をぬぎ、一歩上がった所で
まだ後ろにいた実弥さんに引き寄せられ
唇を奪われた。
性急な行動に眩暈がしたけれど、
それだけ求められているのかなと思うと
幸せな気持ちにになり
私は彼の首元に腕を回す。