第15章 秋祭り【実弥】
大きな木に背中を預けるほど
後ずさった私に、
困ったような笑みを向ける。
「…んな怯えんなよ」
「あ…いえ、」
思ったよりも柔らかな雰囲気に
ほっと緊張が溶けていった。
「あんた、不死川のだろ?」
…の?
何となく引っかかる言い方をされたが
知っている名を出されて
私はそっちに食いついた。
「…え、あ、はい!」
つい大声を出した私に
「威勢がいいなぁ」
クスリと笑う。
…いよいよ優しげな雰囲気だ。
この圧迫感は体格の良さによるものであって
よく見れば粋な色男だ。
「…不死川は?」
「あ、はぐれてしまって…」
「そりゃよくねぇな」
その人は振り返り、辺りを見渡した。
「いいんです!
迷子の決まりを守っている所なので
そのうちきっと見つけてくれると思います」
「迷子の…?あぁ、その場を動くなって?」
「はい!2人で動きまると
見つかるものも見つからないって実弥さんが」
「俺でもそうするね。…ただな、
1人でいるのは賢明じゃねぇな」
「…?」
「こんな人ごみに女1人でいると
ろくなことにならねぇってこった」
「…別に私が1人でいた所でどうにもなりません。
どうせ子ども扱いですもん…」
みんなにこぞってお嬢ちゃん、と呼ばれた私は
ちょっと卑屈になっていた。
「…何と勘違いしてんのかはわかんねぇが、
俺が言ってんのはコレの事なんだがなぁ?」
俯いた私の目の前に差し出された物…
「…私の、財布…?」
あれ⁉︎
いつ落としたの⁉︎
ばっとその人を見上げると
にっと口の端を引き上げる。
「気をつけねぇとなぁ、
人ごみにゃ悪ィ野郎が紛れてんのよ」
財布を私の手に持たせてくれて
その人はまた人ごみに視線を巡らせた。
…スリに合ったという事だ。
さっきぶつかった小柄な男…
「…おっせぇな、あの野郎…」
ぼそりと呟くその人に、
「あの、お1人なんですか?」
ついそんな事を訊いてしまう。
「こんなとこに1人で来ねぇよ」
くくっとおもしろそうに笑われた。
…そりゃそうか…
「お連れ様はどちらに?」
「あぁ、今は飴細工屋で足止めだ」
すぐ隣に店を構えている飴細工屋さん。