第15章 秋祭り【実弥】
少し経つと
「ありがとうございました!」
気が済んだのか睦が
にこりと顔を上げた。
「買わなくていいのか?」
「はい。ちょっと見たかっただけなので」
「遠慮する事ねぇぞ?」
「ほんとに欲しかったらちゃんと言いますから」
嬉しそうにしている睦は
ウソを言っているようには見えない。
「ならいいが…」
腕を組み、先に立って歩き出す。
いつも慎ましく暮らしてるこいつに
こんな時くらいは好きなようにしてやりたい。
こっちから言わなきゃ、
きっと遠慮して何も言わねぇだろうから。
雑踏の中、ん?と思い振り返る。
……
睦の、淡い桃色の浴衣が見当たらない。
……何故、手を繋がなかったのか
そんな事を考えたって、正に後の祭り…
ふと顔を上げた時には、
実弥さんの姿はなかった。
露店を見たいと私がしゃがみ込んだ際に
つないだ手を離したまま歩き出したからだ。
実弥さんは歩くのが速いし、
私はよそ見をして歩くし…
そんな2人がはぐれるのは当たり前の事。
たくさんの人が行き交う中、
彼を見つけるのは難しいと思う…
少しうろついてみるけれど、
やっぱり会える気がしなかった。
一本道ならまだしも、
この神社ほんとに大きくて
参道も十字に分かれているのだ。
こんな時は、
迷子の鉄則だ。
私はたくさんの人をよけ、
そばに立っている大きな木の方に寄った。
気をつけていたつもりだったが、
早足で歩いていた小柄な男性に
どんっとぶつかってしまった。
「っ!ごめんなさい!」
「悪ィな、お嬢ちゃん」
そんな一言を残して、
その人はすぐに人の波に飲まれて行った…。
私ってそんなに幼い⁉︎
そんなにお嬢ちゃんみたい⁉︎
お化粧すればいいのか?
男性が消えた方向を見つめたまま
ぐっと拳を握っていると、
その人ごみの向こうから
今度は大柄な男の人がやってくるのが見えた。
…なんだなんだ、
大柄にも程があるぞ⁉︎
しかも、…私のことを見つけると
方向転換して向かってくる。
見上げるような上背に、つい仰け反ってしまう。