第15章 秋祭り【実弥】
『可愛いお嬢ちゃんのために
いい景品は全部持ってってくれて構わないから!』
……
「いい景品、もらえて良かったなァ」
「……」
睦は複雑そうな顔をして
景品に目を落とした。
「…そう、ですね」
あー…
「いいんじゃねぇの?
可愛いなんて言われたわけだし」
こいつは気にしているのだ。
「…お嬢ちゃん、て言われたのに?」
そう、それを。
あの射的屋に『お嬢ちゃん』と、
子ども扱いされた事。
それに関しては、なんて言ってやればいいのか
うまい言葉が見つからねぇ…
「それは、…なんだ…その、
若く見えるってコトだろ?」
「若いって…程があります…
今若く見られたら、まったく子ども扱いです…」
「そんなに落ち込むコトなのか?」
「それはそうですよ…
だって私、実弥さんの恋人に、見えてますかね?」
「はぁ?」
睦は、そろりと目をこちらに向けた。
「妹に見えてる気がします…」
「そんなの気になるか?」
「それは気になりますよ」
賑やかなこの場にはまったくそぐわない
落ち込んだ表情。
…まったく。
「俺にはよくわからねぇが…
いいんじゃねぇの、俺がいいんだから」
「え?」
訊き返され、
俺は正面に向けていた目を
睦の方に下ろした。
「え?、じゃねぇよ。
俺はそういうお前が好きで一緒に居んだから
他のヤツがどう思ってたって
別にいいんじゃねぇのかよ」
「……」
睦はぼけっとして
俺を見上げていた。
「…んだよ。ダメなのか」
ちょっとムッとして言うと
ぱっと頬を染めて、
「そんな事ない!です…
実弥さんがいいなら、いいです」
勢いよく俺の腕をつかむ。
なのに言葉は尻つぼみ。
「なら、くだらねぇこと考えてんじゃねぇよ。
せっかくダイスキな祭りなんだろ?」
俺がその手を引いてやると
「はい!」
元気よく返事をした。
しばらく歩き、くんっと手を引かれ
「少し見てもいいですか?」
露店の前にしゃがみ込んだ睦。
こいつの好きそうな
きれいな装飾品が並べられていた。
俺は特に興味もなく、
人の流れを何の気なしに見ていた。