第15章 秋祭り【実弥】
やや強めに言い放つ睦。
あァ、こりゃこのままだと
確実に不機嫌になるだろう…
「あ″———!わぁったよ!
当たる保証なんかねぇからなァ!」
「…実弥さんなら当たるもん」
一転してご機嫌な睦は
鼻歌まじりに俺の腕をひっぱって行った。
んなふうに言われたら
やらねぇわけにゃいかねぇだろうが!
そんな事を思いながらふと
人ごみに目をやると、
他より頭いくつ分も抜きん出た男を
遠くに見つけた。
………。
『可愛い嫁と』
そんな言葉が頭に浮かんだ。
……ほんとに本当だったんか。
まぁ、俺のためだったのは間違いねぇし、
感謝してるし、
こんな楽しい場がある事を知って、あの野郎が
黙って見てるなんて事あるワケねぇか。
——面倒だから顔合わせねぇようにしよう。
「実弥さん?」
いつまでもよそ見をしている俺を
不思議に思ったのか、
睦が俺と同じ方向を見ながら呼ぶ。
「お知り合いでもいましたか?」
「…そんなモンいねぇ」
「…そうですか?なら、はい!」
そう言って元気よく渡されたのは
射的用のコルク銃だった。
「…ほんとに俺にやらせんのか」
「えっ、そりゃ私も一緒にやります!」
「お前まさか、
俺と張り合おうってんじゃねぇだろうなァ」
「張り合うというより…勝負です」
「勝負だァ?」
割と真面目な顔でそんなことを言ってのける…
「ナメてんのかよ、勝敗は目に見えてんだろ」
「えー、やる前からそんな身も蓋もない…
楽しく遊びたいんです!」
…こいつは。
毒気を抜かれ、俺はただため息。
あー…なんだろうなァ。
こいつにゃ敵わねぇ。
「はいはい。吠え面かくなよ」
俺はわざとそんな言葉でごまかした。
睦はただ可愛いよ。
まっすぐで、いいヤツだ。
俺なんかにゃもったいねぇと思う事もある。
…ただ、勝負とあっちゃ
俺も手加減なんかしねぇ。
「実弥さん、さすがです…!」
たくさんの景品を両手に抱えた睦が
感嘆の声を上げる。
「当然だ」
俺はそんな睦を見下ろした。
射的屋のオヤジは
あんまりうまいこと命中させる俺に
焦りを感じたと共に
ひどく感心してくれて…だが
撃ち落とした物の半分を
買い取らせてくれと頼まれてしまった。
その代わり…