第15章 秋祭り【実弥】
「…支度してもいい⁉︎」
「あァ、もう出よ「準備してくる!」
食い気味に返事をした睦は
すっくと立ち上がりとっとと自室に籠った。
…飽きねぇなァ…
家を出て、町とは反対方向に行き
川沿いを回って隣町まで。
空が色を変えて行く中、
ふたり手を繋ぎ歩いているのは悪くない。
俺の計算も捨てたモンじゃねぇと思った。
ちょうど日の暮れた頃、
ぴったりに神社に着いた。
それなりに人出もあり、賑わう参道。
「さすがですね…こんなに大きい神社だと」
睦の言葉も頷ける。
人とぶつからなければ歩けない程なのだ。
「あ!私、金魚すくいしたい!」
「…初っ端から金魚はねぇだろ。
どうせいろいろ食うんだろうが」
「そっか…。
落としちゃうと可哀想ですもんね…」
落とす…?
「んな両手いっぱいに食い物を持つ予定なのかァ?」
「なんでですか!
たっ、食べ物ばっかりじゃないですよ!」
顔を真っ赤にして抗議する。
…からかい甲斐のあるヤツだな。
わかってるっつうの。
「はいはい。で?どこから行くんだ」
あちこち目移りする睦の手を引いて
俺は参道に足を踏み出した。
「こないだお前が言ってたのは何だ…
飴細工と金魚すくい、それから?」
「…実弥さん、覚えてるの?」
睦は少し驚いたように目を見開く。
「俺のことナメてんのかァ?
お前の事だ、忘れるわけねぇだろ」
「えー……?」
じとっとした目で睨まれた。
…………まァ確かに。
忘れるわけねぇだろ、
なんてエラそうに言った所で
連れてくのを忘れてたわけだから
カッコなんかつかねぇや。
「だから侘び入れたろうがァ!
んで、ちゃんと連れてきてんだよ」
ヤケになる俺を見上げくすくす笑い
「ごめんなさい。わかってますよぅ。
あ、じゃ私アレがいいです」
指差したのは、射的だ。
「…お前あんなんできんのかよ」
「私じゃなくて、実弥さんが」
腕をゆらゆら揺らして
強請るように上目遣いをする。
「お前なァ…」
「お前のいいようにしてやるからな………
って言ってくれたのにぃ!」