第14章 可愛い邪魔者
「…ない…何ともない…」
呆然としたままの私は
何とか答えた。
だってこの人が、
こんなになってしまうなんて
思いもしなかった。
「痛ぇとことか…」
「大丈夫、どこも…何ともない」
私はぎゅっと、
彼の背に手を回して寄り添う。
「俺ちゃんとできたのかよ。
お前ホント大丈夫なのか」
「天元のおかげで、私は大丈夫だった。
ごめんね…ありがと…」
不安そうな彼に答えているうちに
私は泣きそうになってしまって、
最後の方はもう涙声だ。
とても、申し訳なくて。
私はこの人のために、
軽率な行動をとってはいけないんだと、
痛いほど思い知った。
「ごめんなさい。こんな事、もうしない…
しないから…」
宥めるように、…
…自分に言い聞かせるように繰り返し
彼の背中を何度もさすった。
「あぁ、悪ィ…。情けねぇな…。
でも俺、今日はもう離れねぇ」
私の頭に頬を擦り寄せて
天元は真摯に訴える。
「うん…。ずっといる」
それで天元が安心できるなら、
ずっとこうしてる…
薄暗い部屋。
いつの間にか降り出した雨。
洗濯物は雨ざらし。
お昼ごはんは中途半端に作りかけのまま。
何もかも、放りっぱなし。
でも今日の私は、
そのどれよりも彼が最優先。
私たちは言葉もなく、
ただ身を寄せ合ってお互いの存在を
いつまでも確かめ合っていた。
自分の中で、
睦の存在が大きいと言うことは
重々承知していた。
でもあんな光景を目の当たりにしてしまった瞬間
思っていた以上だった事に気づいた。
普段、何気なくすごしているのが
なんて浅はかなんだと強く感じた。
毎日を悔いのないように過ごしたとしても
万が一、睦を失った時
結局後悔するのだろう。
そんなの、どうしようもない事だ。
なら、こいつを失わないよう、
俺がそばにいればいいだけのこと。
だが俺から離れずにいる生活なんて
物理的に無理があるし、
例えば出来たとしても、そんなものは
睦にとって苦痛以外の何でもないだろう。
そんな情け無い事を、悶々と考えていた。
愛しい睦を、腕の中に閉じ込めて。