第14章 可愛い邪魔者
それでも無言の彼に、
「天元…?」
もう一度、声をかけた。
すると更に強く抱き込まれてしまう。
彼の体の中に、
ずぶりと埋め込まれてしまいそうなくらい…。
「…っ…いき、でき、ない…っ」
彼の背中に回した手で、着物をぎゅっと握り込んだ。
「天、元…っ」
「黙ってろ」
「だっ…て…!」
抗議すると、
息ができる程度に力を抜いてくれて
「黙れ!」
声を荒げた。
私はビクッと肩をすくめる。
いつもなら、私が怯えたとわかると
『悪ィ』とか、『言い過ぎた』とか
謝ってくる天元も、
今回ばかりはそんな台詞を口にはしなかった。
やっぱり、怒ってる。
勝手なこと、したから…?
私がよっぽどの事をしないと
この人は怒ったりしない。
黙れ、ということは
謝罪も受け入れてもらえないのだろうか…
何か言ったら、また、怒鳴られる…?
そう思うとちょっと怖くって、
私はただ黙って天元に埋もれていた。
この人の気持ちが落ち着くまで
おとなしくしていよう…。
どれくらいそうしていただろう。
「あの時、俺が居なかったら…」
天元はやっと口を開いた。
そのままの体制でいるので、顔は見えないけれど
ひどくつらそう…。
「お前どうなってたかわかってんのか‼︎」
大きな声に、私は全身が硬直した。
両肩をつかまれ、ぐいと離される。
眼前の目は、まだ怒ってる…
全然収まってなんかいなかった。
凍りついた私を見た彼は
項垂れて大きなため息をつく。
「…なんて言ったってよー、
お前だって知ったこっちゃねぇよなぁ…?」
急に普段の声色に戻り、
ぐりぐりと頭を撫でられて
私は呆然とするしかなかった。
「わかってんだけどな、頭では…
でもあの、
…お前が落ちる瞬間を思い出すと、怖ぇ」
そんな事を、…言った。
……
また抱き寄せられて、
「怖ぇモンなんてねぇと思ってた…。
でも違う。睦がいなくなると思うと、
…すげぇ怖かった」
強く抱きしめられて、
「いなくなんなよ…」
こんな心細げな声を、初めて、聴いて…。
「あーくそっ…ケガは?」
あちこち確かめるように触られる。