第14章 可愛い邪魔者
「つまんねぇな…」
きゅっと力を入れて強めに抱きしめると、
睦はこちらを向き、はにかんだ。
「うん…早く帰ってきてね」
俺の首元に額をすりつけて甘える。
可愛いなぁ。
離れたくねぇな…
「…行きたくねぇ」
睦は、往生際の悪いそんな俺の頬に
ちゅっと口づけた。
離れたくないのは同じ。
でも人に迷惑をかけてはいけないのだ。
こんなに毎日一緒にいるのに
離れたくない、なんてよく思うものだなぁ…
なんて自分でもちょっと呆れてしまうけれど、
どうやら天元の方も同じでいてくれるようで
私は少しホッとした。
後ろ髪引かれる、とは正にこの事。
天元はこちらを振り向き振り向きしては
煉獄邸へと出かけていった。
私は困りきって、
黙って手を振るしかできなかった。
天元不在の屋敷はガランとして、
普段なら
聞き逃してしまうようなものまで聴こえてくる。
……。
私は包丁を握る手を止めて、耳を澄ませた。
するとやっぱり聴こえた、
『にゃあ』という声。
猫の声。
私はお昼ごはんの下準備を放り出し、
その声の元を探しに台所を出た。
足を止めては『にゃあ』の源を探り、
そっちに向かってはまた足を止める。
なんか、…上から聴こえるような気がする。
私は天井を見上げた。
『にゃー』
外の、木の上なのかもしれない。
小さなその声は、きっと子猫のもの。
私は縁側から外に出る。
屋敷のすぐ隣に立っている大きな木に近づいて
見上げてみた。
空に向かって無尽に手を広げる樫の木。
太い幹に手を添えて
その周りをぐるぐると何度も回ってみる。
すると、太い枝の隙間に見えた小さな影。
「いた!」
『にゃあ』の源を見つけた。
高い枝の上に、小さな子猫が乗っている。
心細げに見えるその子は
こちらを見下ろして鳴いていた。
下りられなくなったんだ。
どうしよう、私じゃこんな木、登れない。
少し視線をずらすと、
物置になっている中二階の窓が、
枝のそばにあるのが見えた。
あの窓からなら、枝に移れるんじゃないだろうか…
そう思った私は、
「そこで待ってるんだよ!」
子猫に向かって叫び、
慌てて屋敷の中に戻った。