第13章 輪廻
大きな紙袋を受け取った俺が振り返ると
そこにいたはずの睦が
忽然と姿を消していた。
辺りを見回してみたが、店内には居ないようだ。
モール内の通りはたくさんの人が行き交い
小さな睦なら
或いは埋もれてしまいそうな勢いだ。
…イヤな予感しかしねぇな。
俺が、勝手にあいつを大切にしてるだけで、
別に俺だけのモンになったわけじゃねぇ。
あいつ、退屈すると火遊びするからな…
この間の公園での一件で学んだ俺は
何となく右へ向かって歩き出した。
人混みでも、
周りの人間を見下ろせる俺としては
人探しは得意な方だ。
加えて勘と耳の良さ。
こんな喧騒の中でも、
聴こえてしまうのだ。
愛しい女の、可愛い声が。
「ねーぇ、私、1人じゃないんだけど…」
「えー?1人だったじゃーん」
「お会計してくれてたのに」
「勝手に買わせときなって。
それより俺とイイとこ行こうー」
明らかにナンパされていた。
俺はその後ろを黙ってついて行ってみる。
あからさまにチャラついた、
真冬だってのに短パンの金髪ヤロー…
そいつに手を引かれ歩く睦は
『イイとこ』の響きに目の色を変えた。
「え、イイとこ?」
「そうそう、もってこいの場所知ってんだ」
「それってお金発生する⁉︎」
「は…おかね…?欲しいならやるよ」
「はいアウトー!」
俺はその男から睦の手を奪い返した。
「は?なんだよ、あん…た…」
俺を見上げ、上背の差に声を失って行く。
「あー、天元おかえりー」
「おかえりじゃねぇだろ、出てったのお前だろうが。
まったく…知らねぇヤツについてったら
ダメだってガキの頃に教わらなかったかよ」
「…そうだった、かも?」
俺の腕に抱きついて天を見やる。
「で?…こいつダレよ?」
俺がジロリと睨むとじりっと後ずさる。
「あ、この人ねぇ、
イイとこつれてってくれるって言うから
…あれ?お金くれるって言った?」
睦は悪気もなく男に声をかける。
そいつは顔を青くして、思い切りかぶりを振った。
「えぇ?くれないの?じゃ何で私を誘ったの?」
…価値観がまるで違う。