第13章 輪廻
そう決めた俺の前に、
ほかほかの睦が現れた。
濡れた髪をタオルで包み、
「ありがとう、ございました…」
まだ照れ気味にドアの前に立ち尽くしている。
「あぁ。ちゃんと、あったまったか?」
「うん…。こんなにゆっくりお湯に浸かったの
久しぶりで…長湯しちゃった。
ごめんなさい…」
「フロくらいどうって事ねぇよ。
ホラ、ベッド行ってゆっくり休め」
俺はベッドルームのドアへと向かう。
睦は戸惑ったように佇んだままだ。
「…?どうした」
「…ひとり、で?」
「え…?」
「私、一人で寝るの?」
不安そうな瞳が揺れている。
「いや…悪いがベッドはひとつしかねぇから
結局一緒に寝ることになるんだけどよ、
俺も、シャワー浴びて来ようかと思ってるから」
「そうなの?…なら、
一緒に入ればよかったのに…」
「…あぁ、…でもお前、
ちょっと一人の時間、欲しかったろ?」
「え…あ、…私の、ために?」
「当たり前だ。
この先俺がすることは全部お前の為だ。
覚えとけ」
「………うん」
頬を染め、可愛く微笑んで見せる。
…うわ、可愛い…
やべぇ。コレ可愛い!
だめだ、これはだめだ。
抱きてぇ!
でも…
でも今夜は我慢だ。
母親と縁を切り、凹んでるはずなんだ。
あんなんでも、自分を産んだ母親だ。
それを、失くしたわけだから、
ひどくつらい思いをしてるだろう。
優しく抱きしめてやる程度に留めておこう。
「ホラ、先に寝とけ」
「…お願いがあるの…」
「…なんだ?」
「もし、お風呂から上がった時に、
私が眠っていたとしても
ぎゅってして寝てほしい。
朝になって、私が目を覚ました時にも
ちゃんと一緒にいてほしい」
…そんな事。
「…ちゃんとそばにいてやるよ」
「ほんと…?どっか行っちゃわないでね?
朝一番に、天元の顔が見たいよ」
泣き出してしまいそうな睦を見て
こいつの願いは
余す事なく叶えてやらなきゃならないと思った。
ひとつでも裏切ったら
こいつは心を閉ざしてしまいそうな気がした。
「どこにもいかねぇよ。
ちゃんとお前のとこに戻るから、
今はゆっくり休め」
そう伝えると、ようやく睦は
そこから動き出してベッドルームに入った。