第13章 輪廻
「今まで睦にして来た事、
この場で詫びろ」
「わ、詫びる…何でよ。
私は悪い事してないでしょ?奪ったわけじゃない。
この子がくれていたお金なのよ」
「こいつが、もう金はないって言ってるのに、
出させようとしていた。
かつあげ、すなわち恐喝だ。罪に問われる犯罪だぞ」
「犯罪…って、私たち親子よ…?」
「じゃあ出るとこ出ようぜ。
俺としては、腐っても睦の母親だ、
犯罪者にはしたくねぇんだが、…
わかってもらえねぇか」
「…っ」
言葉に詰まったその女は、
怯えて震え出す。
「わかってもらえたみたいで良かった。
これから、どっかでこいつを見かけても
声はかけないでもらいたい。
俺が居ても居なくてもだ。
俺の目ぇ盗んでよからぬ事しやがったら
法じゃねぇ、この俺が許さねぇから覚悟しろ!」
空気を震わす俺の声は、
「っハイ!」
反射的にその女の返事を誘う。
「じゃぁ、お引き取り願おうかな。
今のやりとりは録音してある。
逃げられねぇからな。
睦、お別れのご挨拶、するか?」
顔だけ振り返ると、
俯いたままかぶりを振る。
それを確認してから再び向き直り、
「特に無いそうだ。
まぁ当然だ。ただ…」
ただ一つ、この女にする感謝。
「睦を産んでくれた事だけは感謝する」
俺が頭を下げると、目の前の女は
今まで自分がしていた事に気がついたのか、
それとも、金ヅルを失ったためなのか、
涙をボロボロとこぼした。
そして呆然としたまま、フラフラと去っていった。
消えるまで見送った後、
くるりと睦の方を向き、
「…さっき言ったこと、わかるか?
貴重品と、自分の大切なモノ。
取りに行くぞ」
ぼーっとしている睦は
声も出さずに、ただふわりと頷いた。
その調子で部屋の奥に入っていく。
…大丈夫か。
心配になった俺は、
睦の後をついていく。
玄関を抜けて、部屋に入ってみて驚いた。
何もないのだ。
あの日着ていたフェイクファーの上着、
Tシャツ2枚がハンガーにかけられ、
ドアの上に吊るされている。
畳まれたタオルケット。
後は小さな冷蔵庫が置いてある。
それ以外、目立った家具や生活用品はない。