第13章 輪廻
「…違う。あの日は私の意思で行かなかった。
だから自分のせい」
自分に言い聞かせるようなその言葉が
あんまりにも切なくて、
……
「しばらく俺んとこにいろ。
色々、… 不安だろ…?」
睦はぶんぶんと首を振って拒否する。
「俺が許せねぇんなら、
空いてる部屋お前に貸すから。
それなら俺と顔を合わせる事もねぇ」
「……」
黙り込んだ所を見ると、悩んでいるようだ。
…もう、一押しか。
「睦、」
「甘やかさないで」
「…は?」
俺の言葉を遮って
睦が言った言葉の意味を
すぐには飲み込めない。
「私を甘やかそうとしないで?」
つかんでいた手をパシッと弾かれた。
でも、
いつの間にか涙が止まっていた。
怒りも、収まっている…
「大丈夫だから。
女なんて、優しくしたらつけあがるよ?」
真っ赤な目をしているくせに、
にこりと笑う。
大丈夫そうには、見えねぇよ…。
「今日は帰る。はい、カギ返すね。
色々ありがとう」
「…そんな、最後みたいな言い方すんなよ」
「最後でいいんだよ。
私みたいなのには関わらない方がいい」
「お前が、…好きなんだ。
俺がお前を幸せにしてやりたいんだよ!」
睦は驚いて、くすっと笑った。
「ふふ…何を言ってるの?
ただの気の迷いだよ。私の事なんかすぐに忘れるから」
「そんなわけ…」
「でも、あなたのそばは
すごく居心地がよかったよ。ありがとう」
「やめろ」
「私のコト、私として見てくれたのは
あなただけだった。…嬉しかった」
淋しそうに微笑んで、意を決したように
顔を上げた。
「…もう行くよ」
「睦」
「ばいばい」
俺の大好きなあの晴れやかな笑顔で、
睦は手を振り踵を返した。
待てと、言わせてもらえない雰囲気で…
口が出ない代わりに伸ばした手。
その手もきれいにかわされて、
俺たちはそのまま、別れた。
その日から、
俺はもう廃人のようだった。
何をしても、何も感じない。
ただ、朝だから起きて、
仕方なく仕事して、
その為に食って、
夜だから寝た。