第13章 輪廻
「…頼むから、もっと自分を大事にしてくれ。
…俺の言うこと聞け、今だけでいいから」
何でシゴトでもねぇのに
自分を買えなんて言うんだよ。
「……」
「悪ィ。気が立ってんだ」
睦は何も言い返さない。
小さな手をぎゅっと握り直して
俺は再び歩き出す。
黙ったまま、ただついてくる睦。
怒鳴って黙らせても、
服従させてるだけな気がして、
俺はひどくツラくなった。
こいつの心は、今どの辺にあるのだろう…。
そんなことを思うと、
居ても立っても居られなくなり、
俺は睦を振り返る。
「…っ!」
俺は、目を見張る。
考え事に没頭していたとはいえ、
こんなにそばにいた睦の変化に
気づかないとか…。
場所とか、状況とか、
そんなこと考えられなくなって…
一も二もなく、
睦を力いっぱい抱きしめた。
「ごめん…!」
目から溢れ、頬を伝う涙が、
俺の服に染み込んでいく。
自分勝手な俺を拒む睦の腕。
それを更に抱き込む俺。
「ごめん…ごめん!」
「…勝手な事しないでよ!」
睦が大声で叫んだ。
吐き出すような…その叫びは俺に突き刺さる。
「私のこと何も知らないくせに
勝手にシゴト奪ってかないでよ!
そんな権利、あなたにはないでしょ」
「知らねぇよ!じゃあ教えてくれよ!
好きな女が目の前であんな事してたら
放っとけねぇだろ…」
「ほっといてよ!
私はお金がいるんだよ!」
「俺がやるから!」
「あんたなんかから欲しくない!」
「…っ」
嫌われた…
瞬間、そう思った。
でも、嫌われたのなら、
もう遠慮もいらないのかもしれない。
無意識に好かれようと意識していた事に気づいた。
…カッコ悪ィな。
言ってしまった睦の方も、
何故か落ち込んでいるように見えた。
「…何でそんなに金がいるんだ」
見た感じ、ブランド物に溺れている様子もない。
あんな仕事をしてんだ。
しかも人気アリ。
かなりの額を手にしてるはずなのに。
「……言いたくない」
俯いたまま不機嫌そうに答える。
「ホントに、クビ切られたのか…」
「……」
…何も言わねぇって事は、そうなんだろう。
「……俺の、せいだな」
ため息をついた。