第13章 輪廻
人の流れから外れた、静かな場所。
店の裏手。
三方を建物で囲われ、
一方は曲がり道。
ここへ来ようとした人間しか来ねぇ
そして、ほぼ誰も来ねぇ
俺がよく使う場所。
表通りにあるクラブのおかげで
大声を出したって聞こえやしない。
例えば、女の喘ぎ声だって。
その、俺御用達の空間に女を連れ込むと
やっぱり興味なさそうに辺りを見回している。
そいつの首に腕を巻きつけた。
特に驚くでも戸惑うでもなく、
俺と目を合わせた。
「なぁ、お前名前は?」
俺の目を見つめたまま、
「睦……っ」
ぽつりと言った後、しまったと口を手で塞ぐ。
…?
…何だろう、見つめ合う、というよりも
見られているといった感じがする。
「睦か。いい名だな」
褒めてやったのに、睦は眉をひそめた。
普通女は褒められると喜ぶモンだが。
「名前、キライなのか?」
「……」
不機嫌そうにプイと横を向く。
「どうしたんだ」
「…何でもないよ。それで、何の用?」
一転、すべてをごまかすように微笑んだ。
それでもその微笑みは、
今まで見てきた何よりも
俺の心を捉えて離さない。
…ちゅ。
つい、キスをしていた。
本能のままに。
「……今のは見逃してあげる。
でもオイタはダメよ?」
ウソくさい笑顔を貼り付け、
睦は俺の腕をほどいた。
そのまま去ろうとする背中を抱きしめる。
「……」
「悪ィ。でも、離したくねぇ。何でかな…」
「…私、もう行くね」
「行くなよ。離したくねぇっつってんだろ?」
「もー…」
「睦のこと好きみたい」
「…ハルって呼んで」
「…ハル?お前ソレって…」
「お店に出てた時の源氏名だよ」
「…」
「あなただぁれ?その時のお客さん?」
「違ぇ!一緒にすんなや。…どこの店だ?」
「どこって、すぐそこの…」
「何の店だ」
何となーく、嫌な予感がするが、
一応聞いとこうかな。
「ソープ」
「まじか」
惚れた女はびっくりな職業だった。
いやでも、
「店に出テタ時って言ったな。
今はもう辞めたのか」
一筋の希望の光に縋る。
「辞めてはない。お金のない時だけ出てる。
いい店長でしょ?」