第13章 輪廻
平日の、PM 6:35。
その女は決まってこのコンビニの前を通る。
何故だろう。
その女が、ひどくきになる。
俺は素性も知れねぇその女のために
仕事を定時であがり
わざわざここまで足を伸ばしているのだ。
立ち読みを装ってそこに立ち、
適当に選んだ、特に興味のない雑誌を読むフリをして
外へと目を向けていた。
するといつもの時間ぴったりに
その女は現れた。
ツヤのあるキレイな髪。
クセなのか緩くウェーブのかかったその髪は
毛先だけ派手なピンクだ。
上向きのまつ毛に、白い肌、
それを際立たせるような真っ赤な唇。
サコッシュを肩から掛け、
その上に丈の短いフェイクファーのジャケット。
短めのタイトスカートから伸びる
キレイな足を惜しげもなく披露し、
悠々と闊歩する。
咄嗟に、手にしていた雑誌を棚に戻し
その女を見失わないよう目で追いながら店を出た。
帰宅ラッシュのこの時間。
ここは人で溢れかえっている。
背の低いそいつは、人波にのまれていく。
…逃すか。
今日は捕まえると決めたんだ。
人の隙間をすり抜け、細い腕をつかんだ。
急に掴まれたことに驚き、勢いよく顔だけで振り返る。
大きな目を、さらに見開き、俺を、見た。
目が合った途端、周りの音は消え、
時が止まったかのように思えたんだ。
ふわりと揺れた髪が、元の位置に落ち着いた頃、
「…だぁれ?」
思っていたよりも低めの声が俺の耳に届いた。
「…あ…」
つかまえると決め、つかまえた結果……
どうしたらいいのか…。
「……?」
忙しなく人が流れていく中、
立ち止まっている俺たちは白い目で見られる。
「ちょっと来てくれるか」
少し、力を入れ腕を引くと、
何も言わずに素直について来た。
腕からスルリと手を滑らせ、手をつなぐ。
すると向こうから指を絡め、
ぎゅっと握ってくる。
…何だか妙な気分になった。
何つぅか…戸惑いとか、不安とかはねぇのか…?
いや、俺にとっては好都合だが。
チラリと後ろをうかがうと、
よそ見をしながらおとなしくついてくるそいつ。
立ち並ぶ店のショーウィンドウを
興味なさそうな目で眺めていた。