第12章 形影一如

返事の代わりに、涙をこぼした私を見て
困ったように微笑んで
今度は優しく、唇を塞がれた。
それがまた、私を甘やかす。

「ん…ふ…っ」

図らずも、ぴくりと反応してしまう身体。
自分でも驚いた。
彼もそれに気づいて、探るように口づけを深めた。

さすがに、これ以上するのはどうかと思い、
彼の胸を押し返す。
それは、『ちょっと待って』の合図。
わかっている宇髄さんは、唇を離してくれた。

「…何だ。…待てねぇ」

止められて、
少しだけイラついた声。
私は首を振って、

「もう…しない…」

断りを入れた。
この断りを聞いて、しばらく黙っていた彼は

「…そうか」

そう口にして、再び唇を寄せる。
…言っている事とやっている事がちぐはぐだ。
そっと強請るような口づけが、
私を潤して行く。

大きな手が胸に伸びて、膨らみを包み込んだ。

「…っま…ちが、う…ん…っ」

私の苦情なんか簡単に飲み込んで、深まる口づけ。
頭は考えることをやめてしまいそうになる。

宇髄さんの、いつもの手口。
その気がないのなら、その気にさせてやる、と。
そうなる前に、自分を戒めて、
何とか彼から逃れた。

「も…ダメ。宇髄さんだって、少し休まないと…」

横を向いていた私の顎を捕らえ、
くいと正面に向けると、瞳を覗き込んでくる。

「…お前は…さっきあんなに仕込んだってのに
まだそう呼ぶのか…」

忌まわしげな言い回し。
あれ…少し、お怒り気味…？
だって、さっき、って言われても、
さっきの事なんか全然覚えてないんだもん。

「恋人気分はオワリにして、いい加減
俺を夫と認めろ。そうなるまで終わらねぇ。
それとも、子を成せば自然とそうなるか…？」

「な…。なんの、こと？」

「夫婦の呼び名じゃねぇだろ。よそよそしい」

あぁ…

「…じゃあちゃんと呼べたら
もうしないでいてくれる？」

「…さぁな」

「何で…！ちゃんと休んでほしい。
これでも心配してるんだよ」

「…そっか」

目尻に唇で触れる宇髄さんはご機嫌。
嬉しさを隠しきれない様子のまま

「睦…」

甘えた声で私を呼んだ。
時々、子どもみたいになる。
仕方のない人。

「……天元」

慣れない呼び方、少し震える声で
それでも何とか名を口にすると
幸せそうな微笑みを浮かべた。