第12章 形影一如
何か、幸せな夢でも見ていた気がした。
ふと気がついて、瞼を開ける。
橙のライトに照らされて、映し出される非日常。
傍には、愛しい人の、穏やかな寝顔。
相変わらずの幸せな気だるさが、私を襲う。
いつの間にか、あのふっかふかな布団の中にいた。
肌触りのいいそれは、
私の素肌を包み込んでくれている。
規則正しい寝息が、私の耳を刺激して
愛しさが増して行く。
でも私が動いたら、起こしてしまうに違いない。
だからじっと動かず、
こっそり寝顔を盗み見る。
無理矢理飲まされたお酒のせいなのか、
ただ私が狂っていただけなのか
ほとんど記憶がない。
ただ、優しく扱われた事だけは覚えている。
優しい手、優しい声、優しい眼差し。
私は、愛されていると、充分すぎる程に感じられた。
強いお酒が、まだ抜け切らないのか
頭がぼーっとする。
それでも、この身体に刻まれた幸せは
そこかしこに残っている。
その余韻に、涙が込み上げた。
あ、だめだ。泣いたりしたら…。
思った通り、
眠っていたくせに私の気の乱れに気づいた宇髄さんが
うっすらと目を開ける。
私は寝返りをうつのを装って、
彼に背を向けた。
だけどそんなごまかしが通る人ではない。
背中から抱きしめてきて、
「睦、どうした…」
寝起きの掠れた声で言う。
剥き出しの背中が、
彼の温もりを感じた。
それだけの事で、ひどくホッとして…。
これ以上泣かないように、きゅっと唇を噛んだ。
それを許さないと、宇髄さんは私の唇に触れた。
親指の腹で、ゆっくりと解される。
「噛むな。傷つく」
…いつもの事ながら、
この人は見もしないで、
なぜそんな事がわかるのだろう…。
不思議に思っていると
私に絡まっている腕に、僅かだが力が入る。
「…で?」
気怠そうな声。
この人だって、疲れてるのに…。
「幸せだなぁって、思ってただけ」
「……」
「いっぱい…優しくしてもらった…」
言葉にしてしまうと更に実感が湧いて、
私は余計に泣いてしまった。
そんな私を振り向かせて、
額や頬、鼻先に口づけの雨を降らせる。
「…覚えてんの?」
穏やかな声。
私の、だいすきな。