第12章 形影一如
「うまいぞ睦、ホラ」
差し出されたお箸の先に、キンメの煮付け。
「いただきます、は?」
にこりと微笑まれると、
「…いただきます…」
素直になるしかなくて、
「はい、どうぞ」
言われた私はそれにぱくりと食いついてしまった。
でも、はしたないよりも
おいしいが勝ってしまって、つい笑顔になる。
「おいしい!」
「そうだな。
こんなこと滅多にないぞ。たくさん食えよ」
そんな私を咎めるでもなく、
よしよしと頭を撫でてくれ、
小皿にお刺身を取ってくれる。
…こんな
子どもみたいな甘え方をしていいものだろうか…
何故か私はちょっと焦った。
このままだとダメ人間になる気がした。
「宇髄さん、私の甘やかしが過ぎます!
今、自分でもどうかと思いました…」
「はぁ?今更言うか。
お前を甘やかすのは今や俺の生きがいだ」
「それは言い過ぎ…」
「あれー?証明してやろうか?」
お酒のアテを咥えた宇髄さんが
真面目な瞳でこちらを向いた。
それを拒否するようにお箸を手に取り、
私は慌ててありあまるお料理を堪能した。
私の倍以上をたいらげ、
ほぼ完食した宇髄さんは、
追加で頼んだお酒をまだ呑んでいた。
空いた器を下げてもらった。
うちのに負けず劣らず
ふっかふかな布団まで敷いてくれて
仲居さんは終始にこにこで去って行った。
…すごい。
「全部やって下さるんですね…」
上げ膳据え膳を体感した私は
感心を通り越して感動していた。
こんなに何もしなくていい事なんてあるんだなぁ…
楽させてもらえてありがたい…
なんて、しみじみ感じていると
「睦、睦、月が出て来た」
私を広縁へと手招きした。
テーブルでお茶を飲んでいた私は
呼ばれるままそちらへと向かう。
大きな窓から一望できる景色は、
月明かりで青く浮かび上がっていた。
山間に広がる街の灯、
夜だというのに海まではっきりとわかるのは
のぼってきたばかりの太った月のおかげだ。
「きれい…!」
窓に張り付いて外を眺める私の隣に立ち
同じように、彼も外に目をやる。
「昼間もきれいだったが
夜もまた絶景だなぁ」
「うん…夢の中みたい」
幻想的な蒼い景色は、
絵画か、夢の中のよう。
こんな景色が見られたのも、
この人のおかげなんだなぁ…。