第12章 形影一如
小さな器に水色のゼリイ、
金魚型の寒天を泳がせた物を指差すと
睦は目をキラキラと輝かせた。
「可愛い!飾っておきたいなぁ…」
睦の独り言に、店の主人も笑みをこぼす。
「おふたつ、お包みしましょうか?」
にこにこと愛想よく近づいて来た。
「え?持ち帰れるんですか?」
「はい、お持ちいただけますよ。
お2人でゆっくり召し上がっていただけます」
……やり手だな。
睦の気を一気に引いた。
「宇髄さん!いただいて行きたいです!
いいですか?」
睦はキラッキラな笑顔で身を乗り出す。
…断れねぇなぁ。
「んー…ふたつ…ひとつ…?」
睦の様子を窺いながら悩む。
「え、宇髄さんは…食べない?」
そんな顔すんなよ。
淋しそうに訊いてくる睦を見た主人は
俺に向かって
「甘さ控えめに作っておりますので、苦手な方にも
ツルッとお召し上がりいただけますよ?」
にこっと微笑みかける。
…商売上手め。
「じゃあ2つ包んでくれ」
負けました。
「ありがとうございます」
主人は、嬉しそうにしている睦をチラリと見やり、
にっこりと微笑んだ。
あぁ、この主人は、
商品を売りつけたかったんじゃなく、
睦の思いを汲んでくれたのだ。
睦は俺と2人で食いたいと思っていた。
でも俺が
自分の分を買わずに済まそうとしていたから…。
睦が1人で淋しく食う所でも
想像したのだろうか。
よく出来た人間だと……
こんな人間の作る菓子は、
さぞ美味いんだろうと思った瞬間、
頭に浮かんだのは弥彦さんの顔だった。
宇髄さんが、
急に甘味を買い込んだ。
あの、金魚鉢のゼリイだけかと思いきや、
折り箱入りの高級菓子をいくつか手に取り、
一緒に会計をしたのだ。
自分ではあんなに食べないだろうし、
私に買ってくれたにしてはちょっと様子がおかしい。
いつも、どれがいいか私に訊いてから
買ってくれるからだ。
でも今日は、自分で選んでいた。
「宇髄さん…」
「んー?」
半歩分、私の前を行く彼は
ゆったりとこちらを向く。