第1章 嚆矢濫觴
「すみません。もしお客様でしたら、
萌葱色より、淡い牡丹色の方がお似合いかと思ったもので…
差し出がましい事を申しました」
「淡い牡丹色…」
女の子は考えこんで、
「それも欲しいな…。
姉とお揃いにしてもらってもいいでしょうか?」
「作らせて頂いてもいいんですか?」
「はい、ぜひお願いします!」
「ありがとうございます!
精一杯やらせて頂きます!」
そうしてこの子は帰って行った。
その夜、私は簪を作り始めた。
淡い萌葱と、淡い牡丹に染め上げた花びらを、
それぞれ重ねて
花の形に整えていく。
少し金粉を散らして華やかに。
小さな鈴を鎖で繋いで、
揺れた時に涼やかに鳴るように。
完成した2本の簪を作業台に並べて置いた。
姉妹が、もっと仲良くなれますように。
思いの外、作業ははかどった。
予定よりもずいぶん早くに作り終えた。
時間に余裕のできた私は、
昼間に考えた男性用の飾りを思い出す。
でも、男性ってそもそも、女の子のような装飾を
好むのかな。
何ならば違和感なくつけられるだろう。
やっぱり襟飾りかなぁ。
詰め襟の所に、キラキラの石をつけてもキレイかな。
石と石を鎖で繋いでも素敵かも。
……詰め襟?
何で詰め襟。スーツでいいじゃないの。
私は必要のない言い訳をする。
——そういえば今日は現れない。
翌日、あのきれいな女の子が、簪を取りに来た。
品を確認してもらうと、
目に涙をためて喜んでくれた。
私もつられて涙ぐんでしまう。
泣いて喜んでもらえるなんて、
そんな事なかなか無い。
「来月、姉がお嫁に行くんです。
そのお祝いにこの簪を贈るつもりなんです。
私とお揃いにして下さって、
離れていても繋がっていられる気がします。
本当にありがとうございます。
大切に使って行きます」
この言葉で、この先がんばっていける。
「こちらこそ、ありがとうございます。
よろしければ、また寄って下さい」
この仕事をしていてよかったと、
こんなに感じたのは初めてだった。