第1章 嚆矢濫觴
色々思うところがあり、
結局寝入ったのは明け方だった。
私はあくびを噛み殺して店に立つ。
今日はたくさんのお客さんで賑わった。
春という事もあり、みんな少し浮かれ気味。
淡い色の簪が好調だった。
何度も足を運んでくれる人もいて、
みんな口を揃えて
「ここの簪はとっても使いやすい」と言ってくれる。
主張しすぎず、でも目のいくデザインを目指している私にとって、
それは最高の褒め言葉だった。
寝不足でつらいはずなのに、
何だかやけに、すっきりしている。
宇髄さんに話しを聞いてもらったからかな。
おじちゃんの作ったごはんを、
久しぶりに食べたからかな。
両方かもしれない。
気分が良くて、私は新しい商品をたくさん作った。
春らしくて、可愛くて…
そこで、ふと、考える。
男性用の飾りも、何か作れないかな。
ぼーっと考えていると、
「すみませーん!」
と、お客さんに呼ばれる。
色白で、桜色の着物がよく似合うきれいな女の子。
「はーい」とその子の元に寄ると、
「この簪、この形で淡い萌葱色にはできませんか?」
これまた可愛らしい声で訊かれる。
「はい、できますよ!
明日までには完成させます」
「本当ですか⁉︎じゃあお願いします!」
お花を立体的にした簪。
素材はあらかじめ揃えてある。
あとは組み上げるだけだ。
「かしこまりました。
では明日、またご来店いただけますか?」
「はい、わかりました」
萌葱色かぁ…
「あの、失礼ですが、こちらはお客様自身のための物ですか?」
「いえ!姉への贈り物のつもりです。
…どうしてですか?」