第11章 愛心
甘い調子で囁いて、
背中から全身で私を抱き込むように座り直し
左手を取って愛しげに撫でた。
薬指に輝く石。
話には聞いたことはあったが、
まさかそんな事が
自分の身に起こるとは夢にも思わず…。
こんな小さな飾りひとつで、
自分が別の何かになってしまったみたいだ。
そして、左手がひどく重たく感じる。
単なる気のせいだろうけど…。
宇髄さんはすっかり食べ終わっていて、
私を絡め取ったままの姿勢でいる。
もう…何も言うまい。
でも…。
「何だ、もういいのか?」
お箸を置いた私を心配そうに覗き込む。
「うん。もういらない。
胸がいっぱいで食べられないや」
困ったなぁ。
今こんなんじゃ、この先どうなるんだろ。
「そうなのか…?
本当に調子が悪いんじゃねぇんだな?」
「悪くない。ごはんが食べられないのなんて
よくある事だから大丈夫」
わざと笑ってみせると、
まだ心配そうにこちらを見ながら
「ならいいが…」
頷いたけれど、まったく納得していなかった。
でもホントに体調は悪くない。
そんなウソをつく程バカじゃない。
「宇髄さん、もうお腹いっぱい?」
「ん?いや、まだ食える」
「じゃあ…」
私は自分の器から一口分、
彼の口元へ持っていく。
「……」
「あ、私の残りでごめんなさい」
失礼だったかなと引っ込めようとした途端、
ぱくっと頬張った。
「んな事、俺が気にすると思うか?
むしろお前の残したメシの方がうまい」
「えぇ…?よく言う…」
「嘘じゃねぇ。…あ」
次よこせ、と言うように
大きく口を開く宇髄さん。
私は慌てて、また次の一口を運んだ。
「ムリしないでね?」
「お前のメシならいくらでも食える。
睦が食わせてくれるなら余計」
正座をしている私の向きを
くるっと自分の方へ変え向かい合わせにすると
にこっと微笑んだ。
「これからこんなことが日常になるんだなぁ…」
幸せをしみじみと噛み締めている様子だが…
「…まだ気が早いと思う」
「あぁ、そうだが…でももう確定だ。
あーやべぇ、外出たら叫び出しそうだ」
「冗談でしょ?」
「いや、どうだろう」
「やめて」
私が睨むと
「はいはい。善処する」
頭を撫でる。
お願いしますよ、ホント。