第11章 愛心
彼の胸に耳をくっつけると、
優しい鼓動が聞こえてくる。
ずっと、聴いていたくなる。
安心するよ。
何も言わず、動きもしない私を、
宇髄さんは心配そうにみていたけれど、
そのうちそっと抱きしめてくれて、
「どうした?」
ちょっと嬉しそうな声を出す。
「…大好き」
「…」
頭の上で、
はっと私を見下ろしてきたのがわかった。
別に、嘘じゃない。
「好き」
「…あぁ。わかったよ」
何がわかったんだか、
宇髄さんは穏やかに言った後、
甘えるように私の頭に擦り寄った。
「こうしてるの、大好きだよ。とっても、幸せ」
「そうかよ。よかったなぁ」
「うん。もう少し、こうしててくれる?」
私も、甘えてみる。
「ずっとでもいいぞ」
冗談とも本気とも取れる言い方に
つい笑ってしまった。
「ずっと?」
思わず顔を上げてしまった私は
思いの外、真剣な瞳とぶつかって、
笑えなくなった。
「…ずっとだ」
ぽつりと言った宇髄さんは
そっと私に、口づけをくれた。
翌日、店を閉めた私は、
大きく息を吸い気合いを入れた。
…いや、なぜ宇髄さんに会いに行くのに
気合いがいるのか…。
変に気負う必要はない。
ちょっと、気にし過ぎだよ私。
おかしいよ絶対。
いつも通り、楽しもう。
夕食に海鮮が食べたいといった彼のために
顔馴染みの魚屋さんに寄った。
夕暮れ時だし、残っても仕方ないと言って
たくさんオマケをしてくれた。
オマケ、というには申し訳ないくらいの量だ。
魚屋さんを後にして
昔よく聴いた歌なんかを口遊みながら
ゆっくり歩く。
幾度となく通った、彼の家までの道。
踏みしめて…また、憂う。
——ちゃんと伝えよう。
あの人なら、ちゃんと聞いてくれる。
私が玄関前に着くと、
何も言わずともガラリと開く戸。
そこには愛しい人が立っていて満面の笑み。
「おかえり」
そう言われて、私の頭は真っ白になった。
さっきの決意はどこへやら。
逃げ出したくなるくらいの罪悪感。
「あ…はい。わざわざありがとうございます」
「おい睦どうした!具合でも悪ィのか?」
笑顔は一変して、険しいものへ。