第11章 愛心
「だってもう、2人を縛るものは何もないでしょう?
何だってできるはずです」
『何だって』と、
言葉を濁した須磨さん。
そう、だよね。
私たちのことを知っている人は、
誰もがそう思うはず。
「……」
考えこんでしまった私を、
驚いた様子で見つめる須磨さんは
声を震わせた。
「睦さん…まさか…」
「!…な、なんですか?」
いけない、気付かれたかも…。
「他所に好きな人が…」
「それだけは絶対にありません」
…よかった、須磨さんで。
今から明日の準備をしなくちゃと
終始浮かれていた須磨さんと別れ、
台所へと向かう。
…もうすっかりここにいる事にも慣れた。
勝手のわからなかったこの広いお屋敷の中も
迷わず歩けるようになった。
宇髄さんとソウなれば、ここは私の家になる。
…でもソレを考えると、
とても憂鬱になるのだった。
「宇髄さん、お昼ごはん出来ましたよー」
庭のお花をのんびり愛でていた彼に声をかけた。
くるりと振り返り、笑顔で応えてくれた宇髄さんは
やっぱりのんびりやってきて
私のいる縁側までたどり着く。
「腹減った」
言いながら、
膝をついて中腰になっていた私を
ぎゅっと抱きしめた。
「……宇髄、さん…」
何をされたのか、
理解するのに少し時間がかかった。
あまりにも想定外で。
どうしよう、私…。
「あ、あの、ごはん冷めちゃう前に…」
私がそこから逃れようとすると
宇髄さんは、あぁ、と納得してくれた。
「できたてが食えるなんて贅沢だよな」
にこりと笑うと、
あっけないほど簡単に私を離して自室へと上がった。
ぼけっとしている私に
「…早く来いよ?」
と言ってくれる始末。
「…あ、はい…!」
私は慌てて後を追った。
何がこんなに不安なんだろう。
私は愛されているし、
私も大好きだし、彼がどういう人かもわかってる。
じゃあ、何なのかな…。
「自信がないのかねぇ…」
おばちゃんは組んだ腕を
テーブルの上に乗せながら天を仰いだ。
「自信…」
「私が余計な事を言うよりも
ちゃんと本人同士で話し合うべきよ」
余計な事を言った、とでも言うように
慌てて立ち上がる。