第11章 愛心
昨夜、桜の木の下で
睦からのそんな空気を感じ取り…
それをかき消したくて
ムリな愛し方をした。
きっとそれに、睦も気づいているだろう。
お互いに、何も触れないが、
探り合っているような状態で…
俺としてはそんなの、性に合わねぇが
睦の事となると慎重にならざるを得ない。
それだけ、大切だ。
失いたく、ねぇから。
「睦…」
今日も、お前は帰るのか…?
そう言いかけて、飲み込んだ。
「…?」
無垢な笑みを浮かべ、
俺の次の言葉を待つ睦は
或いは残酷だと思う。
切ないこの気持ちを埋めてくれるものは、
睦しかいないと言うのに。
何という皮肉だろう。
「…愛してるよ」
そんな言葉で全てを覆い隠す俺は、
臆病者、だろうか…。
そばにいてほしいと…
行かないでと思いながら…
私は臆病で。
そんな私に気がついているあなたは、
どう思っているだろう。
でも私は…。
こんな私でも…。
こうやって見つめ合えば、
もっとあなたの事を知りたくなってしまうのに。
このままぐずぐずしていたら、
あなたを失ってしまうのかなぁ…?
「睦さん!」
元気な声に呼び止められて振り返る。
台所へ行く所だった私の目に須磨さんが入った。
いつもよりも昂っているよう。
「睦さん、来てたんですねー!
元気でしたかー?」
「はい、とっても。須磨さんも元気いっぱいですね」
「当然です!平和な世になりましたからね!
だから私たち、明日からちょっと
旅行に行ってくるので、睦さんは
天元様とずっといちゃついててもいいですよ?」
「えぇ⁉︎何言うんですか…でも、いいですね旅行」
「そうなんですよー、楽しみで楽しみで…
で?睦さんは?」
須磨さんはいつもの調子で、私に問いかける。
「私?」
「はい、天元様とどっか行かないんですか?」
「行きません。お店あるし」
「えっ⁉︎行かないんですかぁ?
睦さんだけのものになったのに?」
「…何ですか?ソレ」
どういう意味…?