第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
「ちがう…」
睦は再び目をこすりながら
ふわぁっと欠伸をした。
その手を取って
やんわりとやめさせる。
するとまだぼんやりしている瞳が俺を捉えた。
「わたしは、じぶんでなくなりたかったの」
そう口にしたせいで
睦はしっかりと目醒めたようだった。
「現実も受け止められない弱い自分と
さよならしたくて、別人になりすましたんです。
今までの自分を捨てて
やり直したかったから」
そういう事だったのか…
俺は大きな思い違いをしていたようだ。
「鬼のせいで両親を亡くすなんて現実
なかなか受け入れられなくて当たり前だ。
無茶しやがる…」
「え……?」
睦が
不思議そうに俺を見上げたのを見て
俺は自分の失言に気がついた。
「…私、両親の話なんかしました、っけ、」
こうして共にいる時間を増やしたいなら
いつかは話さなければならないと思っていた。
なのになかなか言い出せずに燻っていた俺。
ちょうどよかったのかもしれねぇ。
ここで軽蔑されるのならされておいた方がいい。
親密になってから別れる事になるよりも
まだ今なら
そこまでの痛手にはならねぇだろうから。
でも
どうやって
何から…?
そりゃもちろん、順を追って1からだよな…
俺の言葉を待って
息を凝らしている睦に
ため息を我慢出来なかった。
「睦…悪ィ、言ってなかった事がある」
腹決めようぜ。
後になればなる程
後味が悪ィや。
別に今更イイ格好したとこで
どうにもならねぇ。
俺の情けねぇ所なんか
まぉまぁ見せて来てるしなぁ…
俺は自分にそう言い聞かせて
無理やり納得させた。
「昔、睦の家に
鬼が1匹入り込んだよな?」
「はい…ご存知なんですか…?」
これでもかと目を見開いて
睦は大いに驚いている。
「あぁ。あん時あの鬼を追っかけてたのは
俺なんだ」
「え…?」
全身から力の抜けて行く様は
絶望しているようにも見えた。