第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
私の発したひと言が
予想を超えていたのだろう。
目を見張り絶句する音柱様。
それはそうだろう。
自分でも何を言っているのかと
呆れてしまうほどなのだから。
「ほら…そんなバカな事を私が言い出す前に
早く行ってください」
ね?
と見上げると
困ったように眉を下げて微笑んで
「行きづらくなるような事を
平気で言ってくれるんだな睦は」
愛しげに頬を擦り付けて来る。
平気じゃないよ。
言わなければ良かったって思ってるし。
間違いなく困らせてしまったし…
「ごめんなさい、」
もう謝るしかない私に
「俺を困らせるとか…どんだけだよ。
他じゃあり得ねぇけど
睦ならいいモンだなぁ」
音柱様は優しくそう言った。
とことん赦してくれる構えのようだ。
これじゃほんとに、どうしたものか
私こそ困ってしまう。
「間違ってもここから出たりするなよ。
俺が戻るまで。…夜は危険だからな」
「大丈夫です、
私…それなりに強いと思うので…」
「だめだ。
あんな思いすんのはもうごめんだからな」
苦しげな声と共に
強められた腕。
一瞬、誤魔化されてしまいそうになった。
だけど、どうしても頭に残るその言葉。
「どんな…?」
何の事だかよくわからない。
何かあった?
あんな思いって何の事?
そんなに苦しげな声で…。
「いや…悪ィ。今は忘れてくれ。
いつか、話せる時になったら話すから」
「…はい、」
そう答えざるを得なかった。
それだけ淋しげで苦しそうに見えて。
自分の腕を広い背中に回し
そっとさすってみる。
少しでも慰めになればと思った。
1人で悲しむのはつらい。
それがわかっているから…
だけど私なんかじゃ
この人の力にはなれないかもしれない。
そう思うと、何も言えなかった。
「…ありがとな」
でも想いだけは、伝わったみたいだ。
「睦だけじゃねぇ。
俺も、離れたくなくなっちまいそうだな」
小さく笑いを漏らし、
音柱様はぎゅうっと思い切り私を抱き締めた。
苦しいと文句を言う間もなく腕を解いて
私の額に唇を押しあてると
「行って来る」
短く言い残し、
開け放った窓からヒラリと姿を消したのだった。