第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
鬼の持つ毒なんて
どんなモンだかわかりゃしねぇ。
俺の解毒薬が効くのかさえわからねぇ。
だがやらねぇよりはマシだろう。
何があっても助けなきゃならねぇんだよ。
お前だけは
どうしても
屋敷に着き、
すぐに休めるよう敷いておいた俺の布団に
櫻井を横たえる。
ここへ辿り着くまでの間は
苦しそうに呻いたり
身をよじっていた櫻井だったが
今はもう虫の息だ。
このままじゃ確実に死ぬ。
だがこれだけ大人しきゃ
さっきは飲み込めなかった薬も
すんなり流し込めるような気がして
俺はもう1度、解毒薬を取り出した。
しかしその瞬間、
小さな身体の奥で
何かが暴れ回っているかのように
激しく痙攣を始めた。
「…っ…か、っ…」
「櫻井…!」
眠った人間を呼び起こすように名を呼ぶが
俺の声への反応は見せなかった。
「ッ…ッ…は、っ」
息が出来ず、苦しいのだろう、
両腕が激しく振り回される。
俺はその腕を押さえ込んだ。
腕の傷に手拭いを充て
強く圧迫した。
失血がひどい。
激しく動かすのは得策じゃない。
俺は圧迫した腕の下に
安息を求めて振り回される
もう一方の腕を敷いて、両腕を揃えて掴み
布団にそっと押し付けた。
しばらくすれば呼吸も落ち着くはず。
なぜなら
さっきからその過程を繰り返しているからだ。
体側にも大きな切り傷…
その傷を天に向けるように横臥させる。
その方が腕も押さえ込みやすい。
左の体側…ちょうど胸の横辺りは
骨が覗くほどの、深く痛々しい傷。
内臓に達しなかったのが不幸中の幸いか。
だが、傷跡は、消えないだろう…
櫻井のために用意した
空色の美しい着物は
見るも無惨に裂けていて、
ついでに
胸を隠すために巻き付けていたサラシも
着物に同じだった。
こんな時に言う事じゃねぇけど……
綺麗だった。
よくサラシなんかで押さえ込めていたモンだと
感心するくらい、
女らしい体つきをしていた…
それなのに、何が弥彦だよ。
どうせ親父の名前かなんかだろ。
ヘタな嘘つきやがって。
だから訊いたんだ。
『弥彦?って、櫻井の事?
お前そんな名前でいいのか?』
…って。
睦っていう、
可愛い名前があるのによ…