第10章 知己朋友【ちきほうゆう】
「それよりどうした。
何か用事があんのか?」
「宇髄の部下に誘われたので来たのだが」
宇髄さんは家の奥を一瞥し、
「あいつは…。
煉獄、自分ちの方は大丈夫なのか?」
「我が家は大丈夫だ!」
力強く答える煉獄さん。
「そうか、んじゃ、上がれ!
まだ片付け切ってねぇがな、後は
元の位置に戻す程度だ。酒の準備でもするかな」
気持ちよく受け入れる宇髄さん。
それが半分あたっていて半分はずれていたワケ。
掃除片付けが終わっていないのは正解。
でも突然現れたお客様を嬉々として受け入れたのは
予想外だ。
来るものを快く受け入れる姿勢は素晴らしい。
私もそういう人になりたいな…。
鍛え抜かれた男性2人の力は凄まじいものだった。
目の当たりにした私は言葉を失った。
大きくて重厚な箪笥も、
そんなに大きい必要があるのか
疑問しかないテーブルも、
繊細な細工のある飾り棚も、
スイスイと元の位置に戻されていく。
こういう時、男手って大事だな…。
お客様として迎えたはずの煉獄さんだったが、
結局大掃除のお手伝い係になっていた。
…何の躊躇いもなく力になってくれるんだなぁ。
私が!と手を挙げたい所だが、
あんなに大きな家具を動かす力なんて
私にあるはずがない。
須磨さんを送ったら
すぐに帰るはずだった私だが、
2人が働いている中、失礼するのも忍びなくて
ついつい居座り、
さっき宇髄さんが言っていた
お酒の支度をしている次第だ。
ちなみに雛鶴さんたちは
煉獄さん登場のおかげでお役御免となっていた。
「睦、あっちの部屋、終わってるから」
酒の肴を数種類、
おぼんに乗せたまま
2人の働きっぷりに見入っていた私に、
宇髄さんが指示をくれた。
そうだ。
眺めて感心している場合ではなかった。
2人の作業が終わるまでに
準備を整えておかなくてはならないのに…。
「はい」
私が返事をすると、煉獄さんが
「色々と済まないな」
この寒いのに汗を拭いながらにこりと笑った。
「睦も働いた分だけ、
後で一緒に楽しもうな」
同じく汗を拭ってにこりと笑う宇髄さん…。
2本の矢に胸を射抜かれたようだ…
私、やばいです。