第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
右手で日輪刀の柄をグッと握った。
心拍が乱れているのがわかる。
身体はガチガチに固まっていた。
落ち着け…!
そう言い聞かせても
呼吸は乱れるばかり。
ヤツがこちらを窺っているうちに
心を立て直さなければまずい。
目を閉じて大きく息を吸う。
集中、しなくちゃ。
大丈夫。
音柱様の意に沿うんだ。
やり遂げてみせる。
相手が誰であろうとだ。
そうだ。
絶好の機会じゃないか。
両親の仇を討てるのだから。
ヤツのせいで
私の生活はひどく荒れたものになった。
そうなった事はもう仕方ないと諦めていたけれど
こんなふうに目の前に、
仇が現れたのであれば話は変わってくる。
叶わないと思っていた。
とっくに斬られたものだとばかり思っていた。
それまでの自分を捨てて、
握る筈のなかった刀を手にした。
苦しい鍛錬に耐え
厳しい環境に身を置いて…
あの時からのさばっていた悪夢に打ち勝つ為に。
この手で討たなくちゃ
鞘を持った方の親指で鍔を弾き抜刀すると
それが合図であったかのように
視線の先にいた異形がゆらりと動いた。
私はヤツを
ヤツは私を敵だと見做し
吸い寄せられる磁石のように距離を縮め
互いの勢いに
弾き飛ばされてしまいそうな程の強さで
獲物をぶつけ合った。
その忌々しい鎌をへし折ってやりたかった。
青い火花を散らしながら
キイィンと余韻を響かせた刀。
競り合いでカタカタと震える刃先。
押し戻されそうになるのを堪えて流す。
身を翻し相手の背を取った私が
呼吸を整え繰り出したのは
『雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷』
私は戦う時に、相手の音を聴く。
自分の攻撃を撃つ時機を耳で推しはかる。
故に、私の戦闘は静かだ。
技の名は頭の中で唱えるだけ。
士気を高める唸り声も
深呼吸をするにとどめた。
口に出さなくても
自分の意識を高めて技に繋げる事が出来る。
声に掻き消され
相手の音が聴こえなくなれば
それこそ私にとっては大打撃なのだ。
たくさんの人を食ってきたのか、
あの時からは想像もつかないほど
大柄になっていた異形の者に
きっと力だけでは勝てないだろう。