第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
女物の着物に
日輪刀を差せるわけもなく
私はこんな綺麗な格好には不似合いな
物騒なものを片手に持ったまま、
地面に落ちる自分の影と遊んでいた。
すると、
ぬめったような風が私の頬を撫で…
ぞくりと背筋を凍らせた。
すぐに、鬼が出たのだという事がわかった。
振り返っても姿は見えない。
でも間違いなく、鬼の気配だ。
いやーな感じ。
いつどこから現れてもいいように
私は腰の位置に日輪刀を置き
右手を柄に添えた。
大きく息を吸い込み、
シィィっと、
歯の隙間から糸のようにゆっくりと吐き出す。
意識を集中させても
鬼の居所は掴めなかった。
確かに、近くに潜んでいるのに…。
向こうも、
私の力の程を見極めているのかもしれない。
もしくはよっぽどの手練。
たくさん人を食ってきた古株なのか。
そう考えると、
やっぱり油断はできなかった。
周りに人がいないのをいい事に
着物の裾を払い、
私は大きく脚を開いて構えた。
綺麗なおべべで喜んでいる時間は終わりだ。
音柱様が任せて下さった任務。
失敗するわけにはいかなかった。
月の前を雲が横切り
辺りを照らすのは小さな街灯だけになる。
こんな時に頼れるのは感覚…
遠くで、…近くで、
ものの動く気配はないか。
空気の揺れが伝わって来ないか。
目を閉じて感覚を研ぎ澄ませていると
雲が切れたのだろう
塞いだ視界にも月光が差して
それに誘われるように
私は瞼を開く。
すると
さっきまでは居なかったはずのソレが、
ちょうど私の直線上
数メートル先にいて
こちらを見据えているのが見えた……
私は目を疑った。
しばらく、頭の中が真っ白になった。
見覚えがあるのだ。
あの、ひょろ長い輪郭。
揃わないざんばらの髪。
獲物を狙う、ギラついた目。
手、の代わりの、大きな鎌……
生きていた
生きていた
生きて……!
…なんで、
アイツはあの時…
やられたんじゃなかったの……?