第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
眼球に触れてしまいそうな指先に
私はつい目を閉じて、
「こら!目ぇ瞑るな、睫毛埋もれるだろ!」
「えぇえ自分でやります…」
「どうせ擦りたくるんだろうが。
そんなんしたら化粧ボロボロんなって
最初からやり直しだぞ。
いいから目ぇ開けろ」
「えー…」
眼球に触られそうで怖いから
目を開けないんじゃない。
だって目を開けたら、
音柱サマ目の前にいるんでしょ。
いやだよ。
近いしどうしたらいいかわからないもん。
「しょうがねぇな…」
怖くて
開けられないと思っているだろう音柱サマは
小さなため息…。
自分のものではない親指が
私の下瞼に充てられ、軽く引き下げた。
息遣いまで感じる距離に
まだかなぁと思っているうち、
冷たいものが口唇を滑る…
「ほら見ろ、この方が断然いい」
満足そうな声が耳に届き
騙された事を知った私は
両目をぱちりと開いてしまった。
思い通り、目の前にいた音柱サマと
視線が絡まって…
「やるなら徹底的にな」
それでも全く気にしていないその人は
余裕でにっこり笑って見せる。
なんで…
なんでここまでするのだろう。
遠目から、女の子であるように見えたら
それだけで充分なはずだ。
化粧を施す必要があるようには思えないけれど、
…
『徹底的に』…
この人の性分という事だろうか。
でも私には文句はない。
なかなかこんな機会はないから。
ちょっと…いや、すごく嬉しい。
「緋色が映えるな…悪くねぇ」
うんうんと何度も頷く音柱サマは
まるで我が子を自賛する父親のようだ。
「この感じなら、髪は下ろして
緩い三つ編みにでもしたら
儚げなお嬢様ふうになりそうだ」
「儚げって…」
これでも、何年も鍛えて来ているのだ。
普通の女の子たちよりも
逞しい体格になっている、はずなのに…
「お前はどんだけ鍛錬しても、
メシ食ってもその細さだもんな…」
憐れむように横目で見られて
さすがの私もムッとする。