第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
「…ぃ、…おい櫻井」
……
「っはい‼︎」
遠くから、徐々に耳に入って来た呼び声に
慌てて返事をすると、
目の前の音柱サマが
手拭いのおかげで
少しだけ肉付きのよくなった腰に
上前の襟先を合わせ、
前幅を決めた所だった。
「なんだ、緊張してんのか?」
私の目も見ない。
着付けの方に気をやりながら
そんな事を訊かれ
また叱られる予感がしていた。
そんな事ない!
と、言い返そうとしたちょうどその時。
「大丈夫だよ。櫻井ならやれる」
「へ……?」
「さっき俺が
脅すみてぇな言い方したのが悪かったよなぁ。
でもそんなつもりじゃなかった。
櫻井はやる事ちゃんとやって来ただろう?
だから大丈夫だよ」
いつもと違う優しい声。
励ますような話し方。
耳だけじゃなくて、
全身に染み渡っていくみたいな感覚。
違うよ、緊張って。
そっちじゃなくて。
あなたが、近いから。
近くで、そんなに真剣な顔をしてるから。
だから緊張してるんだよ。
ほんとにわかってないのかなぁ…?
「ほら、腕はこうして、こう!」
それぞれの腕を取られ
肩の高さまで上げさせると
そこに袂をくるりと巻き上げて…
「帯締めるからしっかり立ってろよ」
知らないうちに
おはしょりもきれいに作られていて
伊達締めまで終えている。
…早いし、綺麗。
再び立ち上がり
背後へ回った音柱サマは
私の肩に帯を掛けた……
「…音柱サマ…」
「おぉ、」
私のお腹に巻かれていく帯を
何となく見下ろしながら
私はある疑問を我慢できずにいた。
「どうして…着付けなんてできるんですか?」
それを生業にしていなければ
女の着物の着付けなんて
そうそうできるものではないと思うのだけれど。
それとも私が知らないだけで、
大人になればわかるものなのかな…
え?
そんなバカな。
あれこれ考えている私に、
「そりゃな。
着せられなきゃ脱がせられねぇだろ」
音柱サマは何でもない事のように言った…
至って真面目な様子で。
「…へ、ぇ……」
…着せられなきゃ、
脱がせられ……
「…ん?」
「んー?」