第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
低ぅくかけられた声…
恋柱様に押し倒されて
仰向けになっている私には、
その声の主が見える…が、
うつ伏せな格好の恋柱様には見えていない。
揺れる羽織は白黒の縞模様…
この、地獄の鬼のような
凄まじい表情をした、
蛇柱様……‼︎
いやぁあああ…‼︎
そう叫んでしまいそうなのを
唇を引き結び、
必死に…必死に堪えて
私は恋柱様の肩を高速で叩いて知らせた。
「貴様…名を名乗れ」
チャ、と日輪刀の鍔に指をかける蛇柱様…
私鬼じゃないっ‼︎
え、待っておかしいじゃない。
この図を見てよ。
襲ってないよ?
どっちかっていうと私の方が襲われてるよ⁉︎
そんな言い訳、きっと通用しない。
私を仕留める気満々だ!
でも、上から降ってくる声を聞いた途端、
パッと身を起こした恋柱様が、
「伊黒さんっ」
嬉しそうな笑みを作り
蛇柱様を見上げた。
その途端、あの鬼の形相から一転、
「待たせたな、甘露寺」
穏やかな菩薩様のような笑みを湛える。
…おい、声まで違うじゃん。
さっきの地を這うような声はどこ行った。
ていうか
恋柱様、この人と待ち合わせしてたの⁉︎
「いえ!待ってる時間も楽しくて…!」
恋柱様の、
少し染まった頬を見て
これから始まりそうな恋の種を
初めて見つけたような気がした。
嬉しくて
楽しくて
気持ちを持て余して
ちょっと緊張してるのに、
やっぱり嬉しい…
そんな気持ちが伝わってくるようだった。
私は微笑み合う2人を
ぼんやりと凝視めて、
自分も恋に、落ちてみたいと
初めてそんな事を
思った…
私に手を振り楽しげに出て行く恋柱様。
1人残された蝶屋敷の庭で、
私は心落ち着けていた。
巻藁を前に、目を閉じ日輪刀を構える。
さっきまで目の前にあった、
幸せそうな笑顔がチラついた。
私の選んだ道は、間違っていない。
これでよかった。
私の選んだ道は
自分を両親の元へと追いやり
別人を作り上げるものだった。