第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
「はい…っ」
私のひと言で思いとどまってくれた恋柱様は
少し緊張したように肩に力を込めた。
そんな姿も愛らしい…
上半分の髪を櫛で寄せ、
後ろにひとつで纏め上げる。
…本当に髪の量が多い。
これは全部ではなく
外側の見えている部分だけを
上手に結わなければ縛り切れなさそうだ。
元結できつく締め、
それを桜色のリボンで隠したら出来上がり…
「ねぇ櫻井くん?」
「なんでしょう」
私はリボンの歪みを直すのに苦戦中。
呼ばれても、空返事だ。
なのに、
「お名前、なんていうのかしら?」
「はい、睦………え⁉︎」
ダメダメ!
いくら相手が恋柱様だからって
気を抜きすぎだ!
「名前、私の!名前は弥彦です‼︎」
私は自分の名を父親の名で通している。
つい本当の名を告げてしまい、
大慌ての私を見て
恋柱様は小さく首を傾げつつ、
「弥彦くんか。
じゃあこれからはそう呼んでもいいかしら」
…もしや、親密度が上がった感じかな。
それは嬉しい限りだ。
…でも、弥彦と呼ばれて
すぐに返事ができるかどうか不安な所だ。
でも断るわけにもいかず、
「はい、恋柱様のよろしいように…」
そう言うしかなかった。
「恋柱様!できましたよホラ。
いかがでしょうか?」
私は誤魔化すように声を上げ
2枚の手鏡を合わせ、
恋柱様に仕上がりを見てもらう。
「きゃーっ可愛い‼︎すごいわすごいわっ」
恋柱様は大興奮で喜んでくれた。
と、そこへ…
「なんだ、騒がしいなぁ」
向こうから縁側を伝ってやって来たのは…
「宇髄さん!見て下さい!
弥彦くんが結ってくれたんです!」
特に会いたくもなかった音柱サマだ。
「弥彦?って、櫻井の事?
お前そんな名前でいいのか?」
……
「えぇ?…」
どういう意味で言ったのかわからずに
音柱サマを見上げると、
「なんて失礼な事を言うんですかぁっ⁉︎
弥彦くんってとっても素敵な名前です‼︎」
恋柱様が全力で怒ってくれた。